「蒼の探索」(テル)
秘密結社 路地裏珈琲
「蒼の探索」(テル)
- 67
- 10
- 0
蘇った記憶の断片をかき集め、段々と浮かび上がる“もしかしてテルという人間は、記憶を失ったこの王妃様だったのか?”と言う疑念。
自分もみんなも、遺品から不可解に記憶を取り戻すこの状況で、そう思わざるを得なくなっていたのだが、それを覆す証拠が海底都市で見つかった。
万華鏡を覗いて思い出した、“フラれた日の夕焼け”の記憶に、いても立ってもいられなくなって、自らボンベを背負い再び向かったあの街での出来事だ。
「.......これ、私?」
手にしたのは、教会の外に飾ってあった、何かのお祭りの記念写真だった。機械人形に紛れて、人間らしい姿の者が、他愛もない幸せな日常を送る姿がそこにはあった。写真の何枚かに、ずいぶん髪は長いものの、顔が自分にそっくりな女性が写っている。
そして、その隣で大きく口を開けて笑う、つなぎ姿の機関士風な男性。彼が親しげに女性の肩を抱いているのを見て、記憶が疼かないはずはなかった...。
「テルさん、足が」
「ごめんね...人間は、感情の起伏が大きくなると、エラーを起こしてこうなるの。壊れたわけじゃないんだ」
ボロボロと涙に溺れて、息を吹き返した恋慕の気持ちの濁流の中、ついに立てなくなってしまった私を、機械の青年は黙って支えてくれる。
見様見真似、写真の中の彼と同じように肩を抱いた冷たい腕を、ただどう触れて良いか分からないから、そうしたのだろうと分かっていながらも、私はギュッと、強く握った。
破り捨てることはできないけれど、海の底に隠したなら、溺れて沈まない限り、もう見つかることのない記憶だって、殺した記憶だって、あの日毒を飲んだ私はきっと思ったんだ...。
だけど、違った。生きていたし、私はまだ彼との恋に溺れている途中だった。
助けてくれるライフセイバーなんて居ない、深い深い記憶の海で。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「彼の名前は、ヨウ。
私が、残りの人生をあげたいと思った、最愛の人。
......ううん、だった人」
“過去の写真”を手に入れました。
幾つも甘い思い出を取り戻したようですが、あえて口にはしませんでした。
少し記憶が戻った。
Comment
No Comments Yet.