「蒼の探索」(ケネディ)
秘密結社 路地裏珈琲
「蒼の探索」(ケネディ)
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彼は直接王妃に対面したことはなく、いつも大きなヴェール越しに会話をしていたと言う。
だから、一体彼女が部屋で何をしていたのかは分からないが、おそらく、あの鱗は床に降り積もっていたものだろう。
死後残されたままだったそれが、流れ込んだ水流で巻き上がってきたというわけだ。
「...王妃様は、王様と地上で見た城下町が恋しかったのです。だから、私たちを作って、たいそう可愛がられました。命を授かった私たちにできる恩返しは、彼女のために、精一杯幸せな人間らしく振る舞うことのみ」
「それで、みんな長い間、ずっとあんなふうに笑顔で暮らしてたの。思考回路が焼け切れた後も、ずっと」
王妃は、夕焼けを見たがった。彼の目に仕込まれたカメラを通して、わずかに夕日が差し込む時間帯になると、街のあちこちを散歩してくれと頼んだ。
暮れるまで、もう少し、もう少しと彼女は言う。時々、人通りの多い道で誰かを探すように、辺りを見回すよう指示されることもよくあったそうだ。
彼は、その意味をわかっていた。聞かなくたって、私だってわかる。
「......そんなところに、王様はいらっしゃるはずないのにね。王妃様自身も、お気づきだったはずです。それが自分の、虚しい願望であると」
私達の会話を聴きながら、じっとイヤモニター越しに黙っていたケネディちゃんが、やんわりとマイクに向かって切り出した。
「よっぽど、大好きだったんだね。旦那さんのこと。気になるもの見つけたから、そろそろ戻るよ」
後から聞いたら、彼女は帰り際、その取得物と引き換えに、途中で詰んだ海藻の白い花を執務室のテーブルに手向けて、手を合わせたそうだった。機械の彼は、ケネディちゃんに向かって少しだけ嬉しそうに、一礼した。
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ケネディちゃんが探索を引き継いで、人が使用していた痕跡のある部屋を回ってきたようです。
“夕焼け色の万華鏡”を持ち帰ってきてくれました。
彼女はきっと、夕日の代わりにこれを見ていたのでしょう。
「......変なこと、はっきりと思い出しちゃった。私、夕焼け見ながらフラれたの。彼は笑ってた。けど、私は大泣きしてた。お別れだって言われて、駄々こねたの覚えてる。」
少し記憶が戻った。
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