初めまして「ウタウとしろ」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ウタウとしろ」
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「はいこれデリバリーの分!こっち2番テーブル、これ予約の分取り置き」
「えっ、デリバリーなら、さっきりくちゃんもう出ちゃったよ!?」
「ええ!?間に合わない!ケネちゃん呼んで!ハーレー緊急出動!!」
「緊急出動!?マフィン2個で!?」
「伝票が密書なの、遅れるとややこしいことになるから!」
コーヒーと焼きたてケーキの香りで胸がいっぱいになりそうな、素敵なお昼時のカフェ。
...なのに、カウンターの中は経験したこともない、野営地の台所みたいな大騒ぎだった。スズキさんが流れるように、手のひらサイズのスポンジを、型から外して並べて行くのを、パティシエ達が死ぬ物狂いでグラサージュ。トッピングされたプラスチックの花は、GPSの発信器。お客は正直ガラガラだけれど、レジではしろちゃんが血気迫る指さばきで何かを打ち出している。
よくよくみてみれば、奥のテーブルで不安そうに相談事をしている二人の声をインカム型の集音器で拾い、内容を書き残しているではないか。あのレジは、タイプライターにもなるらしい。
この後私、ウタウは、上司達の指示を待って、あの客へと親しげに話しかけ、お困りの際に相談に乗れるようお友達になるというミッションを課されることになるだろう。
そう、ここは珈琲屋の姿を借りた秘密結社のアジト。
今日も店員達は街で美味しい仕事と騒動のタネをかぎまわり、店内ではターゲットの観察に、ミッション遂行。おまけに珈琲屋のふりして、ちゃんと営業までするんだから、こんなことにもなるわけだ。
わなわなと震える握り拳。
私の瞳には今、一番星にも負けないハイライトが入っているに違いない。
「...どうしよう、すっっごく、ワクワクしちゃう...!!」
「ウタちゃん、新規1名さまご来店!」
「えっ、はあい!」
ここは、秘密結社路地裏珈琲。
甘い秘密の誘惑が、今日も列を成す魅惑のバイトは、裏社会。
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ホールは、人気急上昇、駆け出しアルバイト店員ウタちゃんと、ちょっぴり先輩になった頼れるしろちゃんにお任せ。
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