初めまして「ウタウと星干し」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ウタウと星干し」
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調べれば調べるほど、甘美人の背負ってきた歴史は、華やかさの裏に底のない闇を孕んでいる。
“美しさや可憐さを極めた、希少な鑑賞動物。“
“意思を得た極上の食物。“
まだ今以上に配慮の為されていない書物に書かれた内容は、どれもこれも、酷く自己中心的な、心ない言葉選びで書かれたものばかりだ。
古代図書館で、元博物館職員の3人と共に洗い出した禁忌の書物は、これから厳重に箱詰めして、どこか物置の奥にでもしまっておこうと話していたところだった。燃やして忘れてしまうことは、またそれも適切でないように思う。
うっかりウタウの目についてしまったら、ただでさえ単身環境を変えたばかりで不安定な彼女に、余計な心労をかけなねない。
さっさと片付けてしまうべく、よいしょと本の束を抱え上げた星干しの背後から、駆け寄り手を差し伸べる女性の気配があった。反射的に礼を告げようと顔を上げたら、そこに居たのはハナコではなく、いつもどおりの笑顔を見せるウタウであった。
時間が一気に、凍りついたと思った。
咄嗟に表紙を隠したいが、両手が塞がっているし、そこらに散らばって置かれた無数の本は、もうどうにもならない。
「...ウタちゃん、ごめん、これはね」
「ううん、大丈夫!みんな、気遣ってくれてありがとう」
寂しげに、一瞬だけ下がった眉。本を拾い上げた彼女の口調で、彼女はもう、自分の血が背負ってきた歴史の重みを、すべて知っているのだと、その場の全員が理解した。
「私いつか、世界を変えたいって、ちょっとだけ思ってた。今はまだ、どうやったら変わるんだろうって、ずっと考えてる」
ばらけかけの憎いその書物は、素手でも簡単に破り捨てられる。しかしそれに、とどめを刺すことをせず、黙々と自分の手で箱に納め、片付けに加わった彼女の姿は、とても凛としていて美しかった。
''きっといつか変わるよ"と、浮かんだ言葉を、少しだけ押し留め、ダンボールにその本を受け取りながら、星干しが微笑む。
「...いつか、変えようね。絶対に」
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女の子は強く前を向いて進む。
星こちゃんとウタちゃんは、気高く世界に挑む乙女。
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