「お菓子の街、出発のお知らせ」
秘密結社 路地裏珈琲
「お菓子の街、出発のお知らせ」
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東の空が白んできた頃。
まだ固まり切れていないドロップスの雨が、しとしとと霧のように降る中。飛空挺はゆっくりと加速して、ふわりと地上から離れた。
次の目的地は、まだわからない。ただ、ここから少しでも離れた遠く、海沿いをしばらく漂うのも悪くはないねと、珍しくあてもない旅を選んだ。
虹色に反射する霧の中では、いろんなものが鏡のように写っては消える。まるで自分の中に眠る思い出の数々が、幻になって溢れているような錯覚を、少しの間じっと受け入れて、感傷に浸って居たいと思った。
きっと、あと何度か朝日が上ったら、この愛おしい痛みは幸か不幸か薄れていってしまうから、だから今、ほんの少しだけ。
お菓子の街、ウィーケンド。
喜びと悲しみの入り混じった、思い出の場所に、僕らはいろんなものを置いてゆく。
操舵室から、タナカとハスタの無線が入って、進路を少しだけ変えると伝えられたとき、僕はただ“ありがとう”と返して甲板後方に向かった。
まだ、覚えてくれているかな。いつかの休日、ばったり会った君の胸元に飾ったあのバラを。
君は夢に見たのだろうか。君と彼が、ついぞクリスマスの日に見ることは叶わなかった、雪の降る様を。
眼下、滞在中すっかり見慣れた親友たちのサロンを目に、イチロウくんと僕は、両手いっぱいに抱えた白いカーテンのリボンをバサリと解いて、風にそれを託したのだった。しばらくは美容師の玉子の家で居候だって聞いた時から、僕らは柄にもなく、大輪の花束なんか用意して...
ドロップスの雨には早い、滴の合間を、真っ赤な、真っ白なバラの花びらが、幾重にも折り重なって、降り注ぐ。
言葉よりも、どうかこの景色を覚えて居て欲しい。雨が降ったら、花が咲いたら思い出して。
時々でいいからさ。
「良い1日を。今日も、明日も、これからずっと」
下から見上げる二つの影が見えなくなるまで、僕らは何度も手をふった。
この気持ちは、砂糖菓子が舌先で溶ける切なさに、そっくりだと思った。
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ちょっとだけ見えた、お別れの風景。
※さて、飛空挺は、新しい仲間ハスタさんの力を借りて、ようやくお菓子の街を飛び立ちました。
次に訪れる街は......どうやらまだ未定のようです。
続報を待ちましょう。
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1commnets
- ポプカ👋👋👋✨✨✨