初めまして「ハスタとおねぎ」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ハスタとおねぎ」
- 54
- 13
- 0
「......こんにちは、おじょーさん、わたしはきのこの妖精さん」
「ご機嫌よう、妖精さん。今日はどんな御用で?」
カフェの仕事にも慣れておく必要があるだろうと、キッチンで洗い物を手伝っていた時のことだった。ニュッという効果音が聞こえる勢いで、カウンターの対面側からビーズの目がついたキノコが三匹現れた。
一瞬身構えたが、その後ろでキノコをよいしょよいしょと歩かせている動力源、女の子の手があまりに一生懸命だったので、緊張感はすぐに微笑みとともに抜けて行った。
自称キノコの妖精さんは器用に声を使い分けて、キッチン周りの道具の説明や、作業の手順、時々、上司にあたる人々の“ちょっと秘密だけどみんな知ってるのを黙ってる話”をふんだんに織り混ぜながら、仕事のことを丁寧に話してくれる。ただ、なぜ突然現れたのか、そしてどうしてキノコの妖精さんの姿を借りているのかについては、皆目見当がつかない。
「ほかに聞きたいことはあるかな?妖精さんがお答えするYO!」
「それじゃあ妖精さん、差し支え無ければぜひ、その白い手の持ち主...君の中の人のお名前をお伺いしたいのだけれど...」
「今は訳あって姿を隠しているけれど、あいつ、おねぎと言うそうだYO!」
「なるほど、おねぎちゃん」
不意に、ドタバタ走ってくる音がして、手にパーティグッズの鼻眼鏡を力一杯握りしめたサトウがやってきた。キノコの妖精さん、いや、中の人が、足音を聞くなり“やべ”と呟いたのを、ハスタは聞き逃さなかった。
「あれ?ハスちゃん、今誰と喋ってたの?まさか、ネギちゃんってこが...」
取り残された、キノコの人形。シャアシャアと流れる水の音を挟んで向かい、サトウに向けて、ぎこちない裏声でハスタは応えた。
「まいたけの妖精さんだよ!」
「......はは、なんだ子供向けの催しの練習中かぁ!それは失礼」
隠れていたはずの足元から、反射的に発された“ぶなしめじ!!”の一声で、ひと騒動が起きる、5秒ほど前の出来事だった。
ーーーーーーーーーーーーーー
ハスちゃんの中でネギちゃんは愉快な妖精さん認定された様子。
「もお、ちょっとイタズラしただけなのにサトウさん、オトナゲないんだよ」
「次はうまくやろう、いつでも逃げておいでね」
Comment
No Comments Yet.