南国で2人、手を繋いで
miwa
南国で2人、手を繋いで
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2人ともお互いが気に入ったベッドを確保する。白いベッドの上で海を見つめながら嬉しそうに振れる栗色の尻尾。見慣れない風景に見慣れた仲間、今夜から彼女と過ごすという現実。全てがワクワクする。大学から出て行き、キリエの新しい自分だけの家に入った時より胸が膨らむ。その表情をあざとく見つけ出す二つの目。
「うふふぅー!今日からシノちゃんと二人だね!家族以外の人とお泊まり初めて!いっぱい遊ぼうね」
「うん!もちろ…」
ダメだ!私は理事会員代理!!この島は本当に国交を結んでいい所なのか、しっかり見定めなければならない!…けど…ちょっとぐらいならいいかな…。緩む口元、使命に悩む眉。
「あー、そうだよね…シノちゃんはニフさんの代わりに来てるもんね…くーん」
バドンの陽気でテンションが上がってしまい気づかなかったが、ふと友人の置かれた立場を思い出し、ちぇりはペタリと尾も耳も垂れ下がり、ベッドにしょんぼりと寝そべった。ああ…仕事の事ばかり考えて私は…ちぇりが1番この旅路を喜んでいた。やりたい事も沢山あるだろうに…。
「ちぇりちゃん!お仕事お願いします!依頼は私と一緒にバドン島の視察をする事!…いいかな?」
手帳で口を抑えつつ首を傾げてシノが言うと、ちぇりの言葉より先に快諾を答える尻尾。さぁ、早速出かけよう!2人は手を繋いだ。
「えー。キリエの人ってすっごい疑いぶかぁいな!皆遊びに来たんじゃなくて、視察だなんてぇ」
太鼓と鈴の奏でる音楽で踊る島の長、半神ランダ。彼女を背にして2人と対話するアラタ、手には太鼓。バドンは悪を司る魔女ランダの末裔が取り仕切る島である。まずは彼らに話を聞きましょう!とシノの提案で家へと向かった。
「理事会は世界樹を拠点にしてるからさぁ、僕らが理事会加盟国じゃないのは仕方ないじゃーん?それを不審がられてもなぁー」
ぷっと膨れるアラタの頭に杖がゴツン!
「くぉり!おめ、お客さんになーに言っとるが!」
姉ランダと同じ服装の人物。しかし、どう見ても2人に比べ歳をとっているような…
「ハーウェ、まー可愛らしいお嬢さんだわぁ。よー来てくれたがねぇ」
「バーちゃん!杖で叩くのはやめてよぉ!」
先々代ランダである彼の祖母がニコニコしながら2人に握手した。シワシワの小さな手。
「ご覧の通り、バドンは小さな島国…神、ランダ様の加護をもって何とか細々生きとりますがねぇ…年々、島には人口が減ってしもうてねぇ、廃れる一方。でもねぇ、お客さん方。この島には独自の文化と他に負けない魔道技術、農作物がありますぇ、是非皆様に知ってもらいてぇとやっております。ささ、この島の果実、アマアサ召し上がれ」
黄色くて小さな木の実が葉っぱのお皿にゴロゴロ入っている。2人は恐る恐る口にすると、ねっとりと甘さが広がる。癖があるがなかなか美味しい。
「街のみんなに実際会ってきなよ!それが一番早いって!きっと楽しいよー。僕が保証する!」
ドン!と細い胸を叩いた。2人は果実の礼を言うと、言われた通り街へと歩き出した。
「…なんだかみんな優しい顔してたね。キリエも皆優しいけど、もっと素朴というか、海みたいに穏やかというかぁ…」
手を繋いで歩くちぇりが呟いた。
「…うん。確かに船や家で出てきた食べ物はキリエには無いし、呪詛がないのに動いている魔道システムとか…魅力的なところは沢山あります。人もちぇりちゃんが言うようにとっても優しいし…」
祖母が言っている事は嘘では無さそうだ。行き交う人は皆様バドンの挨拶をしてくる。確かに年配の人が多い印象だが、誰もがおおらかで優しい笑顔で口々にようこそ、可愛いお二人さん!と嬉しそうに語りかける。アラタだけでなく、バドンの人は人懐っこい性格のようだ。歩き回るだけで有名人になった気分。人によっては飲み物をくれたり、フルーツをくれたり…。綺麗な貝殻を自慢してきたアーマンの子供にお裾分け!と手作りの貝殻のブレスレットまで貰った。
街を散策した2人は海を一望できる崖の上にたどり着いた。海鳥の声と波の音だけが響く。ずっと繋いだ手…ペタリと崖に足を投げ座り込む。
「楽しいね…!」「うん…!」
同じ気持ちで今居る事が、何故か分からないが確信を持てた。海を見つめて清々しい顔の2人。視察なんて野暮だったのかも。アラタの言葉通り、実際に触れ合う度に優しさと魅力が伝わってくる。汗ばむ日差しに心地よい海風…こんなに楽しい夏は初めてかもしれない。
「こんなに楽しい夏は初めてかもしれない…」
気持ちをなぞるようにピッタリ同じ言葉を呟くちぇり。シノは嬉しそうに首を降って、この街の人達が素敵だからと言いかけた。
「シノちゃんが隣にいるから…!倍楽しい…気がする!!街も海も食べ物も素敵!でもねぇ、隣で同じ気持ちでいてくれるシノちゃんと一緒に視察のお仕事してるから、それが楽しいの!」
繋いだ手がきゅっと力強くシノの手を握る。腕にはお揃いの白い貝殻。
「私も!ちぇりちゃんが何でも屋でよかった!!」
「えへ!シノちゃんが理事会員さんで良かった!!」
海鳥に負けない大声で笑い合うふたり。何にもない崖と結局何も書けてない手帳、最高の夏。
傾き出す太陽、海が日光を浴びて眩い光を放っている。しばらく無言で見つめていたが、こうもしていられない。これではニフに何も報告が出来ない。とても素敵で良い島でした…と言っても良いのだが、何でも屋として仕事を請け負った以上、しっかりサポートして、バドン島のレポートを仕上げなくては!ちぇりは立ち上がった。
「さ!沢山調べたし、沢山遊んだし…!今度はちゃんとお仕事しなきゃね!任せて!シノちゃんの事沢山お手伝いするからね!」
そう言って座ったままのシノに手を伸ばした。シノはうん!と答えるとその手を掴んで立ち上がった。
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視察を終えたので、今度は報告を上げるシノの手伝いをしてください。
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