あの日見ていた窓の外
やいり feat.初音ミク
あの日見ていた窓の外
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純血の小さな小さなフェアリー…その稀有な容姿にて注目を集めてしまっていたあの頃。友人も少なく、外に出るのも嫌だった。だから、夏の終わりに開かれるバザーだって…ああ、あの商品欲しかったな…安くなっている…でも、人が多くて行きたくない。みんな楽しそうだな…ヤだな…。
幼かった頃の小さな心の傷。忘れてしまっていたぐらい些細な事。毎年のバザーと楽しそうな喧騒。気づくと毎年のバザーはなくなっていた。それに気づかない程、園芸店の生活は充実していた。満たされた幸せな時間。過去の傷なんて…。
「いらっしゃいませ!」
不意に忘れていた痛みがチクリと疼いた。お昼になって、フラリと食事をしようと出かけたフィーを嬉しそうに呼び止める声。振り返ると、あの日窓の外に広がっていた、何度も羨んだ風景があった。
「…バザー…?」
「あ!ご存知でしたか!?フィーさん。そうです!昔キリエでやってたバザーの売れ残りをニフ先輩に譲り受けたんです。きっとこの子達が行くべき場所があると思って!」
最近キリエに越して来たシノの笑顔。そうか、彼女はバザーがあった事を知らないのか…。私は知ってるよ、何度も見ていたもの。ただ見てた。フィーは心の中で話しかけた。何度も行こうとして、会いたくない人の影を見ては諦めていたバザーに今私は参加しているなんて。心が現在と過去を迷子のようにフラフラとさまよった。
「じゃあ、この商品みんな見た事ありますよね…でも買いそびれた物があるかもです!このまま行ったら捨てるしかないので、是非見ていってほしいです!」
出張所と変わらぬ笑顔、シノは屈託なくフィーを誘い続ける。嬉しいような…でもチクリと痛い胸。窓から見える商品なんて一部だけ。そうか、こんなに色々なものが売ってたんだ…なんだか少し泣きそうな自分の胸をギュッと握りしめる。
「う、うん。あの時欲しかったものがあるかも…見せてもらいますね…!」
上手く笑えたかな?フィーはシノに笑顔で答えた。
ああは言ったが…フィーは少し困ってしまった。あの時なんて本当は無いのだ。こうやってバザーに出向いて商品を見回ることが小さな憧れだった。欲しい商品も何も、見る事すら出来なかった。夢が今になって叶う嬉しさと寂しさ。それでいっぱいだった。適当に商品を手に取っては悩むふりをした。
「ふふ、やっぱり几帳面なフィーさん、商品を見る時もじっくり見るんですね」
本当は今、何もちゃんと見ていないなんて言えなくて、シノと一緒に笑った。私のおすすめは…と嬉しそうに喋り出すシノを見て、いつまで過去に囚われてるのかと自分が馬鹿馬鹿しくなった。大好きな居場所、楽しい友人、憧れのバザー…窓から見つめていたこの瞬間を楽しもう…フィーは大きく息を吐いた。
「シノさんみたいな素敵なアクセサリー欲しいです」
シノが胸に手を当て、そして顔を赤らめた。しかし、その表情は何処か嬉しそうだ。
「…こ、これは実は…フィーさんのおかげなんです!赤い糸の花の花弁…ずっと憧れてる先輩に送ったんです。そしたらお礼に花のペンダントをくれたんですよ。だから…」
そう言うと、むんずとアクセサリーを鷲掴み、1つづつ食い入るように見つめ出した。
「あの日のお花のお礼です!私がフィーさんにアクセサリーをプレゼントします!」
それは申し訳ないと断ったが、シノは真剣な顔。それに、彼女が自分に選ぶアクセサリーを見てみたいと思った。ふわりと地面に降り立つと、ぺたりとしゃがんで、シノのチョイスを待った。
「ああ!これ素敵じゃないですか?ほら…プレナイトの雫がついたネックレス…華奢な感じがフィーさんっぽくて可愛い!」
ついに見つけた!と言わんばかりに目の前に掲げて喜ぶシノ。見上げると、ぶどうのような石がチラチラと揺れている。待っててくださいね!と鎖を外し、フィーの首に付けるが…ストン!首どころかスカートに引っかかり、ベルトになってしまった。これはこれでとても素敵ではあるが…
「はぁ!そうだ…フィーさんはフェアリー…!なんで考えずに選んだんだろぉ」
顔から湯気が出そうなシノ。フィーが立ち上がると、パサリと落ちてしまった。
「ごめんなさい!つ、次こそは!絶対に素敵なアクセサリーを見つけます!」
なんだか少しニフに似てきたのかな…仲良く働く2人を思い出して静かに笑った。
「あった!今度こそ!!」
そういって取り上げたのはブレスレットだった。多面体の原石が大小三つ、コロコロと揺れる。まるで血の塊のような、フィーのイメージには強い赤。
「…ガーネット…?」
今度こそ!と鎖を外し首に付けると、チョーカーのようにピタリとハマった。
「ああ!やっぱり!!フィーさん肌が白いから、きっと映えると思ったんです!」
そういって鏡を見せた。白い肌に赤い光が加わって、顔が明るく見えた。デザインも細身でクラシック。フィーの服装によくあっている。
「私の大学では、卒業時にガーネットを送るしきたりがあるんです!ずっと友達だよって…絆の石なんだそうですよ?」
外に出る勇気もなく、友人も少なく、ただ窓の外のバザーを羨んでいた自分が、バザーで友人からその証をプレゼントされる日が来るなんて…。小さな手でキュッとチョーカーを握りしめ、ずっと大切にしますね…と潤んだ目で微笑んだ。
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チョーカーをプレゼントされました。
(シノのバザー 売上6)
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