タカラモノに思いを乗せて
こむろゆい
タカラモノに思いを乗せて
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お店を開くって凄い…なんせ、お客さんが来るなんて保証がないのだから。…震えるシノ。自分はまだ学生だしこのまま行けば理事会員だが、キリエに住む仲間たちは毎日こんな緊張感を持って生活しているのか…!?尊敬の念を禁じ得ない。しかし、そこは用意周到なシノである。…そろそろ来るはずだ…フフンと鼻歌と共に軽やかな足音が聞こえてきた。
「シノちゃんお誘いありがとーう!遊びに来たよ」
二へへと笑う顔に、パタパタ忙しい尻尾。栗色の客がシノとの約束を果たしにやってきた。お祭りでもない平日に、唐突に開いた露店…主は商売をした事の無いシノ…最悪誰も来ないかもしれないと覚悟していた。でもそれは悲しすぎる!と、ちぇりに事前に手紙を書いたのだ。出張所の2階でバザーの売れ残りを見つけた事、誰にも見向きもされなかったこの子達に新しい持ち主を見つけてあげたい事、そして募る不安も全て手紙にぶつけたのだ。
「わぁあ!来てくれるって信じてた!ちぇりちゃん、ありがとうございます!」
「えへへ!呼ばれなくても、こんな素敵なお店なら、皆来てくれるよぉ!でも、お客さん来ないかもって不安よく分かるよぉ。何でも屋もずっとお客さん来なかったから」
恥ずかしそうにポリポリと頬を掻く。ああ…書類に追われ、この後相談に誰も訪れなければいいのに!と思ってしまった自分のなんと愚かしい事か…ますます働く事の難しさと尊さを心に刻むシノ。ありがとうをもう一度伝えようとしたが、顔をパッと明るくして商品を見つめるちぇりに遮られてしまった。
「わ!わ!わー!なんだろう!?これ初めて見るよぉ!?…これは…お皿かなぁ?わ!違った!ここ摘むと立てられる…ロウソク立てなのかなぁ??これは…お洋服?何処から袖を通すのかなぁ??」
沢山並んだガラクタを一つ一つ取り上げては、クルクル回しながら、興味津々に見詰めるちぇり。ワクワクと尻尾が揺れたかと思うと、あまりに用途が不明な物にピタリと動きが止まる。まるで信号の様に、ススム・トマルを繰り返す栗毛の尻尾を微笑ましくシノは見詰めていた。
品数は豊富だ。謎が解けてもまた謎が待っている。商売をしている事も忘れ、2人はナゾナゾで遊ぶ子供のように、商売を見せては使い方を考えていた。正解するとちぇりの勘に拍手し、ハズレると正解との差に大笑いする。調理道具を防具だ!と自信満々に装備した姿は1番の傑作であった。
「違うよ、ちぇりちゃん!それは盾じゃなくて呪詛の描かれたお鍋だよ!少しお水をはって、網を乗せるの。その上に食材を乗せて、テントみたいなこの蓋を閉じると、火や沢山のお水が無くても蒸し料理が食べれる魔法のお鍋なんです」
「おおお!凄い!!炎の呪詛を持ち歩いてても、薪が無いと火が確保できないし、お鍋が勝手に温まってくれるなんて助かるね!」
「お鍋が壊れない程度の火力を探すのが大変だったみたいだよ。お水をはるのを忘れて壊しちゃった人が何人か出てしまって、作るの辞めちゃったんだって」
「えー!便利そうなのに!?…でも、面白いね!一つ一つストーリーがあるんだね。作る人の気持ちとか、売れ残ってここに居る理由とか…」
2人は感慨深く敷物の上に並んだ商品を見渡した。顔も性格も違う人達が集まっているかのように、どれも生き生きと独自の存在をたたえていた。
「あ、ごめんなさい…呼んでおきながら、じっくり商品を見るの邪魔しちゃった…」
「ううん、沢山お話聞けてすっごく楽しいよ!!私も何か欲しいな…くーん…なんにしよう…いっぱい遊んだから、どれも愛着湧いちゃうな!」
尻尾がパタパタと動くが、目は商品の列に釘付けだ。腕を組み、真剣に吟味するちぇり。やがて目は1つの商品を捉え、優しく伸ばされた手は運命の相手を掴んだ。
「私、これがいい!これくださいな!」
シノは驚いた。奇抜なアイディアで作られた不思議な商品や、魔法が込められたアイテムではなく…
「レターセット…ですか??」
愛らしいイラストが描かれた便箋や封筒が詰められたレターセットだった。確かに素敵な商品だが、面白いアイテムが並ぶ中では最も地味な商品である。うっかり本当にこれで良いのかと念を押してしまった。
「うん!これがいいの!だって、こんな可愛いイラストと、綺麗な蒼で染められた紙見たことないもの!見て!?星のイラスト…光に当てるとキラキラ光るよ!!本物の星空みたいだね!」
屈託のない笑顔と答え。確かに不思議な用途もなければ、魔法もかかっていない。けれど、このレターセットもどの商品にもない魅力に溢れていた。
「私ね、シノちゃんが初めてのお店に来て欲しい!ってお手紙くれたの、すっごく嬉しかったの!お手紙って何だかいいね!不安でドキドキしてるシノちゃんが手紙から見えるようで、手紙にヨシヨシしちゃった。えへへ」
うっ!…シノは真っ赤な顔になった。確かにあの時思いの丈を手紙にぶつけてしまった。泣きそうな自分が手紙にありありと伝わってしまったのだろうなと思うと恥ずかしい…
「ありがとう!私、シノちゃんにお返事書くね!だって、お気に入りのレターセット買ったんだもん!最初に使うのは…シノちゃんだよぉ」
お金をもらい、お釣りと商品を手渡す。受け取りながらちぇりは嬉しそうに語った。…最初は不安で仕方ないから書いた誘いの手紙…それがこんな形で返事が貰えるなんて…。シノは顔を赤くしたまま、目を輝かせて答えた。
「きっとそれは私の宝物になるね!ちぇりちゃん、今日は本当に来てくれてありがとう!!」
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手紙の楽しさを再確認しました。
(シノのバザー 売上2)
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