「完結: ミウラ屋です」(しろ)
秘密結社 路地裏珈琲
「完結: ミウラ屋です」(しろ)
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「いかにも、俺は遠く東の国の繁華街で生を受け、この混沌の世に舞い降りた、ミウラの祖……物流で、引き裂かれた世界をひとつなぎにするために、俺が来た!!」
いかにももくそも、誰もお前にまだ話しかけて居ないのだけれどと、突っ込みを入れたかったが面倒そうなので黙った。爪先から頭の天辺までミウラにそっくり、瓜二つのその男は、小手調べに振り下ろされたさりのモップを紙一重でかわし、ふーらの拳を軽く払い退けてやってきた。影が床を滑るような不思議な足取りで、大きな動きはないが、隙もない。時折仕事で出くわす、玄人の動きであると瞬時に察しがついたら、急に場の空気が重くなった気がした。
声は男だ、しかし、細身の体も白い肌も、下手をすれば女に負けない儚さがある。斜に構えた性根をそのまま外に剥き出した、右足よりの偏った重心で、ムカつくほど格好よく佇むそいつには、一人目のミウラには無い気怠いオーラが漂って居て、流石のりくも迂闊に手を出す気にはならないようだった。
全部、どこかで様子を見て居たのだろう。半分ほどに減った焼酎のボトルを手に取って、困惑する美子のグラスと一方的に乾杯し、一気に中身を飲み干して見せる横顔がわざとらしい。そのままフラフラ図書館にまで上がり込んだら、アヤの顔と掲げた本を視線で適当になぞり、いとも簡単に中臣鎌足の一族に関する関連書籍を棚から抜いて持ってきた。
彼曰く、ミウラは性に縛られない。血も、国も、何事もミウラを型にはめて捕ら得ることなどできない。また、人と人とを物流で結ぶ慈愛の信念があれば、誰もがミウラの名を継ぐ権利を持つ。ミウラは、宅配物と愛の伝道者。友と酒を酌み交わすことを至上の喜びとし、家系図を鑑賞しては、遠く繋がった先祖を尊び感謝する。イチロウと暮らすうちに大概鍛えられた、ポエムを読み解く能力をフル活用して、彼女達が辿り着いた意訳を述べると、つまりミウラと言う人物は真に存在せず、あるのはミウラと言う概念のみ。もっと絞って話をするなら。いつの間にか床に正座して、ありがたいお言葉に聞き入っている彼も、おそらくサトウが述べ切った数々のキテレツなミウラも、今ここで熱弁を振るっている”ミウラ”の一人、影武者である。社員と言えばそうなのだが、この徹底したミウラぶりには、影武者の方が圧倒的にふさわしい。
「ちな……幽玄柚月さんは、ご在宅じゃァないんすかね」
周囲を見渡して誰も返事をしない様子からそれを察すると、ミウラは懐からトランプマジックの如し華麗な指さばきで、札のようなものをびらりと展開し、どこから出したやら、音速で油性マジックを走らせる。その間3秒。仕事人の技で書かれた不在票を、完全に怯え切って目をかっぴらいたまま立ち尽くすポプカに握らせて、ようやくそこで面を外した。腹立たしくピンと伸びた小指の電話を、耳元で軽く振って見せるヤツの素顔は、これまた大変腹立たしいことに、人好きのする好青年の笑顔だった。
「俺、電話めっちゃ待ってるって、柚月ちゃんに伝言ヨロでっす」
有限会社、ミウラ屋運送。再配達のご用命は、ぜひ臆せずお掛けいただきたい。
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「ただいま〜、お留守番ありがとね!お土産はレモンケーキと、イキリ野郎の弱味の詰め合わせだよ」
「サトウさん…….」
「で、今日はどのミウラが来たの?」
「……ど、どの!?」
「だって、似たようなのがいっぱい居るからとりあえずわかるだけ特徴言うねーって言ったでしょ、僕」
「……そういうことか」
〜ミウラ屋です、ご参加ありがとうございました〜
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