道標と軌跡
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道標と軌跡
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生きる意味?運命?いやいや、やめてくれよ…いつかの自分が嘆いたっけ。重すぎるんだよね、そういうの。気づいた時にはもうこの世界にいて、訳も分からず流れる時間を受け止めるしかない命…。何を目を輝かせて言ってるんだよ…勘弁してくれ。そういうお前はこの命の意味を分かって生まれてきたのかよ?そしてこの先起こるかも分からない幸不幸を、運命なんてロマンチックな言葉で納得していけるのか?…街が破壊され、瘴気を食らった自分が人目を避けて彷徨っていた時に、客引きの安っぽい占い師に投げかけれた言葉。私は何も言わずに飲み込んだ。ああ親友、希望の街で私との約束など忘れて幸せに仕事してるのかな…もう街に手紙を送ったって私は居ないのに、お前は何も知らないで…
恨んだ事もある。何も知らないのは私の方だった。お前は約束を死ぬまで忘れてなかった事も、生きる意味も運命もお前には無くなってしまった事も…。なぁ、何故私達は出会い、共に生きて、今私はここに1人で立っているのだろうな?
「私達はオベリスクの黒魔女。先祖が神落ちを起こし、街を破壊する化物と化した愚かな血筋…この憑神交心の呪詛すら、誤ちを起こした『強化』と恐れ、生まれた途端一族から消されてしまったの」
さとらが咎の象徴、無加手の刺青を摩る。己にかかる強化や加護を食い荒らし、魔法を使えば保持者を侵食する、今は禁忌の呪詛。一族の絆と呪い。彼女もまた、この理不尽を運命と抱え、時間の波を1人立ちつくしている…。
「たまたま、その存在と私の事を大叔母様が気にかけていてくれた、想いを遺し託してくれた…幸運に恵まれたからやっと日の目が見れただけ。それが無ければやはり否定され、破棄され、私の死と共にもう生まれなかったかもしれない…私の『証』でもあるの。単なる売り物の1つ、便利な呪詛の1つでしかない。でも、これは確かに『私』なの…だから…」
さとらの唇が震える。これは、私とさとらの運命の道標と命の軌跡の対話。
「凄いよな。大叔母さんが助力したとは言えさ、さとらは1人で戦ったんだろ?一族の、気が遠くなるような時間と掟に…。私は…遺されたものの後をただ追い続けてる。私は偉大な神の手って奴の背中ばかり追って、もう…この先並ぶ事なんて出来ない。創り出したのもアイツ、作り上げたのもアイツ、完成へ導いてるのも結局…私はただ1度も…」
蛍石が割れそうなぐらい握り締める。吐き出してるのは自分なのに、改めて自分の気持ちに気付かされる。…痛い、苦しい。悔しかった、憧れてた、並びたかった…己の無能と無力を抱えて消えたくなる気持ちをぐっと堪えてさとらの目線に応える。
「未練と馬鹿にされても、無様でもいい。アイツの『命』の証を、アイツの成し遂げられなかった幼い頃の約束を…。正直、せっかく呪詛とその理論を教わっても無駄にするかもしれない。武器として生みだしたとして、その先の技術がどう歩むのか見通す力もない」
止めどなく吐き出される己の言葉の不甲斐なさに腹が立つ。でもその全ては真実だ。ならば、この先吐き出すそれもまた…どうか、届いてくれ!
「けれど、この命が続く限り、さとらの懸念する心に全身全霊で答え続ける。必ずや、さとらとアイツの技術を穢したりしない!……我儘だって分かってる。けど私は、この世に居ないアイツともう肩は並べない。だから、私はアイツを超える!それが私の生きる意味だ!!」
ピシピシッ…パリン!ジーグを支えてきたお守りのライトの蛍石をついに握り潰した。気付けば涙が両頬を絶え間なく濡らし続けていた。それは、厳しい顔で睨み続けるさとら自身もであった。この地に生き、モノを生み出す者同士の声にならない詩が響く…胸が引き裂かれるような耐えられない痛み…透明の沈黙。
「私だって分かんないわよ…呪詛を持って行って、運良く許可を得て、正式な呪詛となった事が、本当に正しいのかって。やっぱりタブーだったんじゃないかって。私の呪詛で誰かが神落ちを起こしたら…たまに考えてしまう。…でも、この私の呪詛に希望を持って、命をかける人がいる…私は…」
厳しい顔を続けたさとらがついに顔をクシャクシャに崩した。
「私は…間違っていないかもしれない。ごめん、まだ怖いよ…この選択は…私は正しいの?創る時のワクワクまで絶望に塗り潰されたら…怖いの。でも、可笑しいでしょ?嬉しいの…私…嬉しいんだよ…ジーグ…」
「あなたのそのいしとこころが…」
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神の手の設計図と稀代の天才の呪詛を揃えることに成功しました。
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