闇に光る
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闇に光る
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「…うっそ」
…
「え、いや…うそー」
「2回も嘘って言うな。どんだけ嘘なんだよ」
待ちに待った新たな試みコスメのモデル。浮き足立つ己を抑えきれずに満面の笑みで、いらっしゃぁい!とドアを開け放つとそこには最も想定していなかった人物が立っていた。武器屋のジーグ…自分と同じ中性、化粧をするとは思えない。
「通りで夜のメンズサロンを面会時間に指定してきたわけね。どんだけ照れ屋の可愛い方かしらってワクワクしてたのに…よりにもよって…」
以前、アグルから仕事の依頼を貰った際に気が合わないのは嫌という程分かった。考え方もスタイルも真逆。ああ、やりにくい…心で呟くヤミィ。しかし気になることがある。
「化粧なんてジーグは興味無さそうじゃない?なんでまた私の店に来たのよ?」
「魔法のコスメだ。私も調度人に合った属性って気になっててな。それに…化粧をしない訳じゃない」
そういうと服をめくり、胸の下、溝内周辺を腕で擦る。黒煙のような禍々しい黒が顔を出す。驚きに声を失うヤミィに静かに説明した。
「魔王の瘴気の跡だ…魔王バロール…邪眼の大悪。ライトで目を潰しながら逃げてきたが、視線に侵食されてな…これでもシミは消えた方だ」
ふう…ジーグが抱えた業に真摯に向き合い、息を静かに吐く。誰もが何かを背負い生きている。私も、目の前の彼も…。ヤミィはカルテと様々な素材の粉末を取り出すと、パッチングとカウンセリングを行った。
数日後、工房にヤミィから手紙が届いた。サンプルが出来上がったから来て欲しいという旨だ。『貴方の真の美しさ、このヤミィが発掘するんだから、必ず来る事☆』と彼らしい一文で締め括られていた。肩から力が抜けるような脱力感を手紙から受けたが、ジーグを気にかけて時間は夜を指定してきた。カウンセリングをしている最中、いつもわざと華やかに見せようとふざけた口調で話している、あの気に食わないヤミィとは違う顔があった。…もしかしたら、アイツを少し誤解しているのかもな…そう思いながら夜が来るのを待つ。
「…邪魔する」
「ふふ、いらっしゃい」
月明かりだけが照らす2人だけの店内。ゆっくりと奥へと進んだ。
「まずは結果から話すわ。面白い事がわかったの。1番相性が良いのは雷…トールのカミツキだしね、当然。けど、他にもいい相性があったわ。土と…闇。土は恐らく鉱石や金属を長年扱ったからでしょうね。闇は…その瘴気よ。長年魔王の力と共にあった貴方は体に適性を持つようになったのでしょうね。つまり…」
「つまり?」
「生まれて即座に守護する憑神の属性の他に、ヒューマノイドはその人生と経験からゆっくりと自分の属性を作り上げるようね」
「…!ほほぉ…それはとても興味深い…」
「この話、きっと1晩ずっとしてられるわね。でもごめんなさい。私は貴方に化粧がしたいの。誰でもない、貴方に…」
初めて見る真っ直ぐな瞳。初めてヤミィが本当に美人だと思った。月夜の光のようにキラキラと金髪が光を放つ。
深夜に苦手なアイツと2人、私は化粧を施される。こんな奇妙な日が来るとはな…ジーグは思った。いつもヘラついているアイツは一言も喋らず下地を丁寧に塗っていく。
「さぁ、早速やってくわよ。ジーグ、貴方は中性にしか出せない微妙な表現を可能にしているの。それを瘴気の毒だと嘆かないで。それは貴方と美に対して大きな欠乏よ。体に染み付いたそのシミを白く塗りつぶして憂鬱を騙しても、今をただ停滞させるだけ…」
悲しそうな顔で諭す。そして、下地で整えられた顔にすっとアイラインを引いて、橙からライトブラウンへ変化するようアイシャドーを施し、その上から金のラメを纏わせる。リップやチークはごく少量、整える程度に抑えたら次は手を取る。蜥蜴特有の細く長く鋭い爪に、真夜中を詰め込んだ様な漆黒のネイル。その上にも先程のラメを振りかける。仕上げにムスクが主体の少し重いオリエンタルな香りを付け加えた。
「…どう?違和感や痛みはない?」
「…すげぇ…シミを消す白粉より馴染んで軽い」
「金のラメは鉱石を守るノームの加護を得られるわ。この量だから少し攻撃をガードする程度だけど…後、ネイルは魔族の血や闇に纏わるハーブで作られたものよ。多少、闇を疎む種族に強く攻撃が通せる。どう?呪詛と違って付けるだけで能力が変化するわ。ただ、微弱だけどね」
「いや、これは画期的だな…考えもしなかった」
「…ね?闇を操るのはカミツキぐらい。呪詛でもあまり種類はないわ…どんな経験で夜に落ちても、いつか周り巡って生まれ変わるの。だから…」
人差し指でヤミィの口を優しく塞いだ。その指には漆黒の闇にキラキラと光が宿っていた。
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初めて本格的に化粧をしました。
(ヤミィのサロン 売上1)
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