#エスタシオン事務所
「──ねえ、有賀。どうして?」
■磯谷 陸:水葬
✄-------------------‐✄
初めに見た時は何か変だなと思ったんだ。でも有賀は「なんでもないよ、大丈夫」って笑うだけで。だから何があったか聞くことが出来なかった。だけどその変だって思った時から、有賀は頻繁に一人で出かける日が多くなったような気がする。
絶対に何かに巻き込まれているってことだけは分かっていた。けどそれを俺が聞いていいのか、暴いていいものかとすごく悩んだ。もしかしたら有賀は本当に知られたくないと思ってるかもしれないし、俺じゃ頼りなくて話せないのかもしれない。けど、確実におかしいことが起こっていることは確かなんだ。だって、毎回有賀は出かける度に暗い顔をしているし、帰ってきたらまっすぐ部屋に引っ込む。首まである長袖を必ず着て行く。何かを隠しているんじゃないかって、不安で仕方なかった。
俺は、ライブラは──有賀がいなきゃ駄目だ。もし有賀がいなくなるようなことがあるなら、それが前向きな意味じゃないのなら、俺は有賀をどうにかして繋ぎ止めなくちゃいけない。けど、俺にそんな力があるかどうかは、分からない。俺が首を突っ込むことでもっとひどいことになる可能性だって勿論あるんだ。…だけど、それで後悔するくらいなら。
有賀がまた一人で出かけていった日。社長にお願いして、有賀の部屋の鍵のスペアを借りた。部屋にある机の引き出し、一番上。前に有賀に招かれて入った時にちらと見た、不自然に押し込められていた封筒を開く。──そこに、あったんだ。有賀を殴って虐げてきた母親とかいう他人の、有賀をまた悪夢に落とすような、言葉たちが。
有賀。…どうして、その人たちの元に通っているの。有賀にとって、その人は消したいほどの記憶じゃなかったの。俺はどうしていいか分からなくて、酷く混乱したんだ。──有賀は、酷いことをしてきたそっちの方が、大切になったんじゃないかって。だから俺はやっぱり、どうしていいか分からなくなってしまったんだ。
Comment
No Comments Yet.