#エスタシオン事務所
「生まれとか、育ちとか。なんで子供は選べないんだろう。……なんで、私は二人に迷惑をかけるようなことしか出来ないんだろう。」
■在間 夏輝:兎茶乃てまり
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私は母親の顔を覚えていない。十にも満たない年の時に私を置いて出て行ったことだけは知っている。私のことを捨てた母親なんてどうでもいいと、育ての親になってくれた祖母に何度言ったか分からない。それでも、不自由なんてしていなかった。
アイドルになりたいという夢が出来たのは、きっと不自由なんてしていないと強がっていた私に沢山の元気や勇気を分け与え続けてくれていたからだと思う。憧れて、いつか同じような存在になりたいと思って事務所を訪ねたのだ。けれど、入所が決まった私に祖母は苦い顔をした。
「あんたはアイドルにならない方が良い」
「どうして? 私に親がいないから?」
「違う。そうじゃなくて、」
祖母は哀しそうに顔を歪ませて、小さく呟いたのだ。
「──あんたの母親はね、風俗嬢だったんだ。それも有名で、アダルトビデオにも出ててね、ファンがいるくらい人気だったんだ。もうあの子がどこに行ったのかアタシは知らないんだけどねえ、……でも、あんたは、あの子の娘だ。……あんたは、あの子にそっくりなんだよ。瓜二つだって言ってもいいくらいに、似ているんだ」
──私は、母親が嫌いだ。後に産まれてくる私のことなんて鑑みない、自分勝手で、それでいて私を放って逃げ出した、私に瓜二つだという母親のことが、……本当に嫌いだ。
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