その一手の悦を…
niki
その一手の悦を…
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怒号と共に魔法を放とうとする人間の山賊に素早く銃を放つ。間髪入れずに弾を変えて、亜人、獣人にも撃ち込む。サラマンダー、ノーム、シルフが着弾と共に召喚され、属性魔法が炸裂する。焼かれ、裂かれ、押し潰され…三様の叫びが響く。それを見つめるジーグ。
「いいねぇ…なかなかいい出来だ。それにしても呪詛と宝石を変えるだけでこれだけ手数増やせるなんて、お前って本当に羨ましいよ…」
銃に囁く。しかし、呪詛弾の破壊力は直接憑神の力を借りる魔法を越えられない。ネズミの獣人が急いで回復魔法を詠唱しリカバーを試みる。山賊の行動に構わず、銃を愛おしいそうに撫で、なんとしまい込んでしまった。驚く山賊に面倒くさそうにジーグは言い放った。
「…あー上手くいかなくてさ…弾の軌道もズレちまうし…試し打ちの的になってくれてありがと」
抑揚のない感謝。完全に馬鹿にされ益々頭に血が上る山賊、顔を真っ赤にしている。
「鉄買いに行くのに、これ以上無駄遣いするかよ。お前らは魔法だけで十分…でもゴメンな。私の憑神は不器用なんだわ…」
最早ジーグの呟きなど、怒り狂った山賊の耳には届いていなかった。何人もの血を吸ったであろう凶剣がジーグに牙を剥き出していた。
「巨人打ち破りし戦神、如何なる力もただ一振の槌にかなわず。打ち鳴らせトール!」
振りあがった剣が、哀れな事に避雷針となってしまった。とてつもない力と轟音を放ちながら人間の山賊に落ちた。周囲の土が焦げる程の破壊力…回復魔法等では手の打ちようがないダメージを受け、その場で白目を向いて崩れ落ちた。
「あちゃー…だから言ったじゃん、不器用だって。憑神さん、この一撃の一つ覚えなんだよ。単一魔法っての?上手く制御出来ないんだよな…それでも良いなら…相手してやるよ?」
魔法を放った余韻が未だジーグの手の周辺でバチバチと音を立てて閃光を放つ。気だるげな表情にギラリと光る眼…恐怖で一瞬たじろぐ山賊達だったが、大金と仲間をやられた手前、引く訳にはいかなかった。
獣人が即座にダークエルフへと強化魔法を放つ。スピードを上げたダークエルフは一定の距離を置いて矢を放ち続ける。矢を避けようとすると、すかさず獣人が槍を振り回し攻撃を繰り出す。バランスの取れたパーティ、連携も取れているし、粗雑な武器だが扱いが良い…。補助に回る獣人の戦法も面白い…紙一重で避けながらも、興味深く山賊の手を観察するジーグ。…うっ!矢がうっかり脇腹を掠めた。するとダークエルフは目敏くヒットを感知し詠唱した。
「ホヤウカムイ、ホヤウカムイ…沼の神蛇、翼ある者よ。血の穢れ、無様な肌晒す命に息吹を。爛れ、腐り落ちろ…」
あぁ!痛みで無意識に声が上がる。矢が掠った傷が一気に腫れ上がった。…成程、本来なら獣人がバックアップした後に人間と亜人で攻撃し、少しでもダメージを与えたら一気に毒で畳み込むのか…こいつらも魔法銃みたいに面白い…痛みで脂汗が滴っているのに、ジーグは心からワクワクして笑みすら浮かんでいた。
「…いいなぁ、器用な奴らは。ずっと見ていたいけど、急がねぇと体がもたねぇな…悪い、不器用なんでね、手加減出来ないんだ…覚悟しろよ?」
槍がジーグを襲う。その槍を避けると同時に掴むと、雄叫びを上げて獣人ごと地面にたたきつけた。弱っていると思っていた亜人は底力にたじろいだ。その刹那をジーグは見逃さない。
「突き上がれ雷鳴、地を轟かすミョルニルの槌。這わせ電流、敵を包囲せよ」
衝撃波のような稲光が地面を無尽に走り出した。地面に叩きつけられた獣人は勿論、ダークエルフも電流のスピードには勝てず、体を焦がしながら地面へと崩れた。
「んやー、たぁすかるよぉー武器屋のあんちゃん。アイツらのおかげでこぉーっちも随ぃー分、被害にあっちゃってさぁー」
ひどい訛りで喋るドワーフの鉱夫。ニコニコ嬉しそうにジーグの脇腹に包帯を巻いている。
「んだからよぉー、この治療はタダにすてやっからなー。嬉しかろぉ?」
「いやなんでだよ?お宅も困ってた山賊を退治した時の負傷だろーがよ!?…感謝ならもっとこうさぁ…鉄安くするとか、珍しい宝石おまけするとか…あるじゃんさ…いろいろ」
「んま!わーがままかぇ?すかたねぇなぁ!ンなら、タダで泊めてやるさね、完治にはすこーし時間さかかっから!」
「要らね!ここの飯不味いの知ってんだから」
叫びも虚しく、結局坑夫の元で夜を明かし、翌日顔色が良くなったジーグは沢山の鉄を抱えてキリエの工房へと帰っていった。
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山賊を撃退し、鉄を持ち帰りました。
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