特別短編「パンドラの箱、後日談」(teru)
秘密結社 路地裏珈琲
特別短編「パンドラの箱、後日談」(teru)
- 36
- 13
- 0
「花子さんは、さ......優しいね」
「ちょっと言ってること良くわかんないから、こっち来て詳しく」
だからって腰から抱き寄せてこんなに密着する必要は無いだろうと、目のやり場に困る谷間から逃げ出そうとするテルを、花子はご満悦の様子で抱き抱えて夜風を楽しむ。
よく晴れた月夜の甲板で、二人の影が、寄り添っていた。
「だって、孫になってあげるんでしょ。あのおじいさんの」
「......なんでそう思った?」
毎月一回でも、手紙を書く相手がいる幸せ。自分の苦楽を誰かに打ち明けられる安心感、小さな贈り物で償う機会を与えられ、きっと、それが途絶える時というのは何かが彼の身に起きた時。その時彼女は確かに“ぶん殴りに帰る”と言った。何処にいたって、最期の時はひとりでは逝かせないと、宣言したのだ。テルが小さな声でぽそぽそとそれを告げていくたびに、花子の唇はちょっとずつ曲がっていった。
「だってさ、私には、あんたとか、悼とかさ、ううん、みんなが居るじゃない。逆に言うと、それくらい支えて貰わないと抜けられないような地獄に居るわけ......私も、じいさんも」
「うん」
「私、あんたの親切、無駄にしたくないから。あいつの孫になって、あいつの根性叩き直して勝ち取るの。私のこと想ってくれる優しいお爺ちゃんに、ワガママ言いながら旅する、平穏な日々よ。今までの過去を全部塗り替えた、幸せな未来」
お菓子が届いたら毎月女子会するわよ、と。笑いながら頬擦りした花子の頬は、小さな滴に濡れて、少しひんやりと冷たい。夜風の中で寄せ合った肩の暖かさが、いつもよりも心地良くて、もう少しだけこのままで居ようと、どちらともなく足を投げ出したのだった。
「なんか、明日が来るのが待ち遠しい」
ーーーーーーーーーーー
そんな幸せへの第一歩。
Comment
No Comments Yet.