【第2話】入り乱れし舞台(第3節)望海-ボウカイ-の予兆
OCEAN TRAVELERS
【第2話】入り乱れし舞台(第3節)望海-ボウカイ-の予兆
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【第2話】入り乱れし舞台
(第3節)望海-ボウカイ-の予兆
あいてて…頭痛が痛い。などと頭の悪い日本語を考えながら寝覚めの悪い朝を迎える。
「なーんか誰かに呼ばれた気がするんだよなぁ…」
大きな独り言を吐きながらあまり覚えていない夢に思いを馳せる。ま、そんなことしたって1ミリも思い出せないんだけどね。
不思議と、向かわなければならない場所はハッキリとしている。パンツ柄の布団を剥ぎ、身支度を済ませて単身軽装、外の世界へと踏み出していく。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
遠出なんて久々だ。普段なら思いもしない場所へ向かうというのに、どうしてこんなにもスイスイと歩が進むのか。
「ん?」
これぞ、野生のカンというやつか。
「あ、あれは」
なるほど歩みが軽やかであった事もこれで頷ける。
「パンダ柄のパンツ!!!!」
住宅地、ひっそりとした公園内のベンチにこれまたポツリと取り残された
「収集!!!!!!!!!」
パンツ(落とし物)。
「ハゥゥゥン可愛いッ!!!この絶妙なモノクロバランスに素晴らしくマッチングしたクマさん!!!!!」
「でも熊なんだよねぇ。」
「そう!!!凶暴なイメージが付きやすいクマさんではあるけれど、実はこちらから仕掛けなければ温厚って誰ぇ!?」
流れるような会話の中で全くといっていい程その気配を感じ取れなかった不覚失態極まれりなこの私の名はそう、アクアパンダ。が、現状問いたいのは突如として目の前に現れたこの男の名のことであり、
「誰だと思う?」
ベンチに深く腰掛けて柔らかく笑う眼鏡の男。その微笑みの奥底に、計り知れぬ程のおぞましい何かを感じた気がして
「って、あれ?その声、どこかで聞いたような」
「おまたせきのぴ~。あ?」
そうこうしている間に第二の訪問者、現る。金糸の髪を少しはねつかせながら、どこかで買ってきたのであろう手羽先を片手に小走りに近寄ってくるその人も、眼鏡の彼とはまた違った威圧的な何かを感じて
「……邪魔したな。」「まってれったん。」「へ?」
くるりと踵を返してこの場を立ち去ろうとするその人を留まらせ、この誤解を解く為に。……私は泣く泣く、ケーサツにパンツを届け出たのである。……えらい、私。
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「ほえー!ぱんぱんぱぱんぱんちゃはイケブクロいくんか!」
「まあね!れったかたんたんたーーーんときのさんはなんでナゴヤに???」
「ノリ。」「めっちゃわかる。」「ほんとそれ。」
「何なら私、これからノリでイケブクロいく。」
「手羽先が美味い。」「もう一本あるぞきのぴ。」
「すぐそこに美味しいきしめん食べられるお店あるよ。いく?」
「「いく。」」
謎に意気投合してしまった2人と共にナゴヤの地を食い歩く。
ちょこ食いの出来るお店をひたすらに巡りまくり、レッツエンジョイ観光勢と化すがしかし。
「あれ?れったんたんたかたん、うなぎダメ?」
「骨がうぜぇ。」
「骨が無かったら俺ら生きてねぇだろ!!!骨に謝れ!!!!!」
「うるせぇ!!!!!!wwwwwwwwwwwwwwwww」
「ガハハハハハ!!!!!!wwwwwwwwwwwwww」
おじちゃんの癇に障ってしまい、ひつまぶしのお店は出禁になりました。
「天むすってモー娘。みてぇ」
「どうしたのれったかたんたん。」
「モー娘。に謝れ。」
「さっきからそればっかじゃんきのぴ。」
「いや、こいつが天に謝るべきだと思う。」
「きのさんもどうしたの。」
「恐れ多くも天の名を語って商売繁盛させるとは罪深き味してやがる。」
「もう殺そう。」「そうだな殺そう。」
「会話についていけないんだけど!!!!!!!!!」
物騒な会話を聞き逃さなかったおばちゃんにより、天むすのお店も追い出されました。
「おいこの味噌の色合いがうn」
「わかった!!!!!私買うから2人はあっちいっててぇ!!!!!」
味噌おでんのお店はテイクアウトにして事なきをえました。
行く店先々で騒動を起こさぬと気が済まぬのかといった具合。唯一被害を被らなかった…否、被害を加えずに済んだその報酬(味噌おでん)を頬張りながらも、私達の歩みは自然と駅へ向かって進んでいた。
「そうだ、サキ達になんかお土産。」
「あー、寄ってくかぁ。」
キノの思い付きにより途中立ち寄ったお土産屋さん。駅からもそう遠くないナゴヤのお土産屋さんだというのに、その品揃えは全国的なものになっていて。
「ワオ、洞爺湖木刀売ってる~www」
ひょいと手にしたホッカイドウ産の木刀が、何故か気に入ってしまった。
「銀〇じゃん。」「わかる。」
「発情期ですかコノヤロー。」「アッーーー!!!www」
もうこなれたコントを広げる2人を背に、すっかり手に馴染んでしまった木刀を店先でブンブン振り回してみる。良い子のみんなはマネしないでほしい。
「買ってやろうか?w」
「え!?!?もしや、こやつを使って未知なるパンツ達を収集せよという任務なのでありますかれったん。」
「素の呼び方になってて調子狂うwwwほら、貸して。」
笑いながらも上から伸びる手によって木刀は持ち去られてしまい、呆けている間にレタが購入してしまった。
「ほい。」
「まじかれったかたかたんたん。ありがとう!!!」
「いいっていいってw」「アナタが神様!!!!!」
「俺が神だ(ドヤ)。」
「カァァァァミィィィィィッッッッッ!!!!!!」
「レタ。」
ひやり、と。身に纏う空気を一瞬、ほんの一瞬だけ変えたキノが、これまたその流れを察知して瞬間的に雰囲気を凍り付かせるレタを端的に、呼ぶ。
たったそれだけ。それだけの事であったのに、私の体は酷く硬直し、声すらまともに出せぬ状況に……ほんの一瞬だけ、陥ってしまった。
名を呼んだキノに対し、ちらりと目くばせしたレタが再びへらりと笑いだす頃には、その縛りはすっかり解けていて。
「俺らちっと野暮用できちまった!!ここで解散すっぺ!」
なんともマイペースなその笑顔に、ほんの少しだけほっとする自分がいた。
「色々教えてくれてありがとな!ぱぱぱぱんぱんぱんぱんちゃ!!!」
「楽しかった!!!ありがとう!!」
あの時、自分が何と返事をしたのか否、返事自体をしたのかすら今はもう忘れてしまったが。去り際、彼らの発した一言が私の何かを奮い立たせたのはよく覚えている。
「それ、忘れんなよ。」
「楽しんでや。」
くすりと笑いながら、2人はこの場を去った。その言葉の真意を知る日がもうすぐそこまで来ている事を、この時の私は思いもしなかった。
これは、偶然にもチョンとリッカの2人と合流し、共にイケブクロへ向かう事になる、少し前の出来事である。
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「もしもしサキ?」
『キノくん?連絡遅いよ、返信ないから心配した。』
「ごめんて。」『それで、見付かった?』
「いいや、見付からなかった。ほんとにナゴヤにおるんか。」
『おかしいなぁ、確かにナゴヤのハズなんだけど。』
「よー、きーちゃん。この後どうするよ。一旦そっち戻るか?」
『うーん。』
『1回戻ってきてもらおっか。待ってればその内来てくれると思うよ。』
『そうだね。』「きまり。戻るぜきのぴ。」
「おっけー。あ、そうだサキ。」『ん?』
「最近、俺の力によく似た周波感じない?」
『えぇ?』「…………気のせいか。」
「なにイチャついてんだよはやく結婚しろやいくぞ〜」
「なんでもない、また後で。」『気を付けてね。』
2人に気付かれぬよう、物陰で一部始終を聞き取っていたある男が、
「………なるほどね、いっちょ僕がいってやりますか。」
静かに動き出した。
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