【第1話】大洋の息吹(第5節)見当違いな集合体
OCEAN TRAVELERS
【第1話】大洋の息吹(第5節)見当違いな集合体
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【第1話】大洋の息吹
(第5節)見当違いな集合体
あれは神の声だ……きっとこれはお告げなのだ。そう確信して。
夢の中で耳にしたあの声に導かれるようにイケブクロへ向かおうと、住み慣れた土地をあとにした。
もう2日も前のことである。
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「エイさん1号参上。」
硫黄の香りが漂うとある土地にて、黄色の瞳をキラリと怪しく光らせた男が腕を組み、ドヤ……とキメ顔を魅せる。
「むむ、2号参上。」
どこから湧いて出てきたのか、腹の底で何を考えているのか分からぬ感情の掴み所の怪しい糸目の女が、白く長い三つ編みを揺らしながらそれに乗じる。……と、
「ぐれちゃんやー!( 厂˙ω˙ )厂うぇーい✨」
「シロちゃーん!!( 厂˙ω˙ )厂うぇーい✨」
第一声との温度差よ。決め台詞もそっちのけで唐突に、そして親しげにじゃれ合う2人は既に懇意の仲である事が見て取れる。
「それで?何を奪い合うって??」
物騒案件を口にしながらさぞ楽しげにはしゃぐぐれちゃ……もといグレイ。
「ま、何にせよ。俺様のぶっ飛んだ音域とハモリでみなイチコロさ。」
スッと前髪をかきあげながらキザにキメるしろのん……もといシロノの横でこれまたグレイが
「んもぉ〜〜シロちゃん最っ高〜〜〜!!」
黄色い声でキャッキャとはしゃぐかと思いきや
「負ける気がしねぇぜ……」
ベッと唾を吐き捨てギラリとニヤける。いや誰……その二面性、面白いくらいに怖いけど……私ここに入っていけるのかな……。
……初対面の筈なのにあだ名さえ浮かんでしまうくらいよく知っている面々。会話の内容から2人が自分と同じ夢を見てここに辿り着いた事を察し(いやここイケブクロじゃなさそうだけど)、それを汲む事のできる自分。全てが筋書き通りとでも言わんばかりに、目の前で起きた出来事が脳内で整理されていくのを感じながら。
「大体、男声ってところがもう強みなんだよねシロちゃん。」
「それな?もうブイブイいかせちゃうわよぉ〜!」
「イっちゃってぇ〜!!!」
会話の輪に入っていけずに見守る残念な自分がここにいた。
ところで、とシロノが切り出す。
「ここどこよ。イケブクロ?」「さあ?」次いで首を捻るグレイ。
まってまってまって後ろの駅を見てそこの2人。見て!ほら!!「熱海駅」って書いてあるでしょ!!!!ねぇ!!!!!
ぐぬぬと堪え切れぬ感情を押し殺しながら物陰に潜む。瞬間、シュンッと頬のすぐ横を何かが掠めた。
「何奴。」
後方を見やると、掌サイズの果物ナイフがコンクリートの地面に深々と突き刺さっている。それを投擲した本人である、キリリと目を吊り上げるシロノと視線が合い、
「あれ?ヒナさん?」「わわ!ひなちゃ!!」
遅い。非常に。気付くのが。いや、実は既に勘づいていたのかもしれない。知っている振りをして放っておいてくれたのかもしれない。否、この現状こそが、所謂ノリオクレというやつなのだろうと。2人の顔を見て
「エイ3号参上。」
それはそれは優雅に、私もそれに乗じた。
「わーい!ひなちゃいらっしゃいまし〜!!」
ぐれちゃが天使。
「3人揃った所でどうする?熱海でしょ?ここ。」
あれれ?イケブクロ行くのよね大丈夫?しろのん???
「わかった。じゃあイケブクロ行く前になにかしよう。えぇと……①温泉②カラオケ③取り敢えずご飯食べる……どれがいい?」
ここは3人の中で1番お姉さんであろう私がまとめるしかないと判断し、提案。しかし、数秒とせぬ内に私は後悔する事になるだろう。
「1号らしく①で〜」
「2号らしく②で〜」
ひとつに案を絞らなかった己の愚鈍さを。
…………え、私これ③なの?③選ばなきゃダメなの?まって、ねぇ。
このどうにも自由過ぎるエイさん達を誰か助けて……。
自らの、苦労人しか見えない未来に嘆き悲しみながら。心からの叫びを胸の中で押し殺した。そんな私ヒナのヒットポイントは既に気疲れという名の痛恨の一撃によって、著しい低下をみせていたのであった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「そういやキノくん。」「んー?」
シャントラの面々を各地へ飛ばし、誰もいなくなった灰色のイケブクロの地で。やれ取り敢えずラーメンだの、君は野菜を食べろだの、すぐ横でやいのやいのする神2人のわちゃわちゃを聞き流しながら。私は愛する人の名を呼んだ。
「あのさ。」「うん。」「エイ。」「………………あ。」
呼びかけられた意図の全てを悟ったキノが、ぽかりと口を開けながら頭を搔く。
「やべぇ呼び忘れた。」「やっぱり。」
許してとお願いされちゃ許せざるを得ない。あとであのゲームをさせる時にでもまとめて呼んでやろうと思った。
これは神の気紛れ……否。気忘れによって生じた、のちにシャントラのエイとしてその名を馳せる事になるであろう面々の、とてもおっちょこちょいなお話。
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