三つ編みと青い星
歌:妖夢討伐隊{栗山未来(CV:種田梨沙),名瀬美月(CV:茅原実里),新堂愛(CV:山岡ゆり)},作詞:小田倉奈和,作曲:俊龍,編曲:高橋諒
三つ編みと青い星
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「兄様見て、兄様みたいな綺麗な青の花」
濃紺の美しい三つ編みを揺らしながら、花を抱えて嬉しそうに青年の元へ走りよる少女。
「ブルースターだ、信じ合う心…僕らの家族のようだね。母様!花瓶を出して貰えないかな」
下等兵の鎧を纏い、花と同じ淡い青の短髪を靡かせ、青年は少女と家の奥へと入っていった。
代々軍人を何人も輩出しているドラコン族の名家に兄妹は暮らしていた。家の伝統に従い兄もアヴァロンの騎士団に入団することが出来た。切れ者で物腰も穏やか。名家の名に恥じぬ実力と振る舞いで、強い期待を受けていた。
「みりんも僕の様にアヴァロンで働くかい?」
「…わ、私は…怖いのは嫌いです…出来ればお花屋さんになりたいな…」
「優しいみりんにピッタリだね。無事に花屋になれるよう、平和な街を僕が作るからね」
と兄はみりんに言い聞かせた。穏やかな青、優しい笑顔。みりんはそんな兄を心から慕っていた。
「ねぇ兄様。また魔法の訓練に付き合って?魔法が下手だってクラスの子に笑われたの…」
「…大丈夫、憑神の力が強いだけさ。自分と憑神を信じるんだ。きっとみりんは誰よりも素敵なカミツキになれるから…」
少女は気弱で引っ込み思案であったが、兄や家族に支えられ、幸せに過ごしていた。
アヴァロンでは年に一度、軍事パレードが開催される。総帥を初め、幹部達が着飾ったワイバーンに乗り街を闊歩する。様々な催し物の中、一家が最も楽しみにしているのは全軍人の昇級発表であった。祭りのムードの中昇級を皆で祝福する。無論兄の昇級は確実視されていた。
「私、最前線で兄様をお祝いするわ!」
興奮気味に語るみりんを、少し恥ずかしそうに優しい笑顔で兄は見つめていた。
パレードを直前に控えた夜、異様な物音でみりんは目を覚ました。何事かと思っていた所母が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「カ、カブトプレパスが近くの外壁を破ったわ!みりんも早く支度して!逃げるわよ!!」
「お父様と兄様は!??」
「指令を待ってられないって出ていったわ!」
聞いた途端に異様な胸騒ぎに襲われたみりんは、居てもたってもいられず母の静止を振り切って壊された外壁へと向かった。
現場では巨大なカブトプレパスが暴れ回っていた。夜の奇襲で体制を整える暇などなく、夜間の門番数名と異変に気づいたみりんの父と兄だけで迎撃せざるを得なかった。邪眼を持つ妖獣カブトプレパス。その目に睨まれれば石化は免れない。目隠しをして魔法で迎撃する部隊と、その部隊に指示をしながら後ろに回り、トドメを指す部隊に別れて戦っていた。父は対面部隊の筆頭、兄は奇襲部隊の指揮を取り、親子の絶妙なコンビネーションで追い込み、遂に外壁の上から奇襲部隊が剣をカブトプレパスに一斉に突き刺した。
恐ろしい断末魔が辺りに轟き、カブトプレパスは倒れ込んだ。動かないのを確認すると、歓喜の声が上がった。部隊が崩れ、カブトプレパスの処分を話し合おうと皆が集まりだした時だった。頭を狙った兄が目の近くを滑り降りている最中、絶命したはずのカブトプレパスが突如真っ赤な目を開き兄を睨もうと目を動かした。
「だめぇぇぇぇええ!!!」
みりんの叫びと共に、ブルースターの花畑が広がった。水晶の様な氷の花畑。突然の冷気に怯み、カブトプレパスは暴れ、兄は頭から滑り落ちてしまった。花畑の出処に気づいたカブトプレパスは怒りに任せてみりんへ襲いかかる。皆が警戒を解いていたため動くことが出来ず、兄も立ち上がれずにいる。今妖獣にトドメをさせるのは…でも…みりんは目を閉じた。
…目の前に美しい氷の巨龍が立ち塞がっていた。恐ろしさに戦いていたが、龍は聞き覚えのある優しい響きで語りかけた
「自分と憑神を信じるんだ。きっとみりんは誰よりも素敵なカミツキになれるから…」
はっと目を開く、カブトプレパスは目の前まで迫っていた。
「みりん!信じろ!」「リヴァイアサン!!」
妖獣の巨大な躰を氷の龍が鬼気迫る表情で締め上げた。近くに落ちていた剣を拾い上げ、叫び声を上げながら、真っ赤なその目にトドメの一撃を突き刺した。
パレードの賑わいに負けぬ響きで、兄の名が読み上げられた。その場に現れたのは、三つ編みを解き、高く結い上げた鎧姿の少女だった。
「我が一族の名に恥じぬ様忠義の心を力に変え、この身を平和に捧げる為参りました!」
花畑のおかげで絶命は免れたものの、立てぬ兄に走りよった家族は絶望した。…数秒の遅れだった、彼の足は石に変わり、もう二度と己の力で立ち上がれない身体になっていたのだ。
「…胸に刺した花、美しいな。なんと言う名だ」
総帥は静かに問うた。
「ブルースター…花言葉は…身を切る想い…」
リヴァイアサンが横にいる様な気がした。その目は相変わらず、優しいあの人に似ていた。
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憑神の見せる夢で、過去を思い出しました。
「ブルースター」
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