蒼と緋
VS
蒼と緋
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- 1
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そっと帰ろうとするアグルの肩をみりんは掴む。
「…貴様、アグルだろ?」
アグルから笑顔が消えた。
「軍師時代、半神だと舐めてかかった後輩が、翌日打ちのめされて門の前に倒れていたんだ。…まぁ、奴のその時の態度は軍でも問題だったからな。私から鉄槌を下す手間が省けた訳だが」
あぁ、あの時の…アグルは苦笑いを浮かべた。
「軍師であれば貴様を確保する事も出来たが。今は門番だ…現行犯でもない限り捕まえられん」
「いやー、命拾いしましたわぁ」
アグルは笑いながら目を必死に凝らした。最悪だ…戦場で見掛けたら真っ先に回避する様な相手だ。普通に戦っても手強いのに、アグルには相性の悪い氷使い。
「成程、伝説の軍神様は単一魔法使いか…」
独り言でボヤいた。カミツキの殆どは2~3種類の系統の魔法が使えるのだが、稀に一種類しか使えない者がいる。一種類しか唱えられない代わりに高度な魔法を使える上、威力が高い。
「カミツキになれない半神でありながら、その強さを知らぬ者はいない…アグル。貴様と一戦交える事が出来て、私は嬉しい!」
みりんはそう言いながら氷で槍を作り上げた。Let It Goかよ…とアグルはやれやれと言った顔でカバンから大量の爆弾を出した。
乱雑に爆弾を撒き散らし、更に仕掛けていた火炎の罠を発動させ、一帯は火の海と化した。
「流石手練だ…。私の遠距離攻撃を封じたな?」
「これだけ暑きゃ術者から離れた氷の発動は困難だろ?手は出来るだけ潰さねぇとな」
すかさず呪詛の書かれた羊皮紙を取りだし、自分の血と髪の毛を添えて腹から叫ぶ。
「沙羅曼蛇!!!」
呪詛から炎がまるで龍の様にうねりながら飛び出て、みりんに襲いかかった。みりんは微動だにせず炎と向き合って叫んだ。
「其は絶対零度の蒼き牙王!迎撃せよ、リヴァイアサン!!」
炎の龍を巨大な氷の龍が迎え撃つ。灼熱のフィールド、更に炎の龍が襲いかかっても、氷の龍は平然と其れを踏み荒らし、消し去ってしまった。その様子を静かに見守っていたみりんが、すっと目を下に下ろすと1歩下がり突きの構えを取った。真っ白な水蒸気を掻き分け、凄いスピードでアグルが迫ってきた。構えた槍を一気にアグルへと放つ。斬り掛かろうとしていたナイフを咄嗟に槍の受け流しに使い、もう片手に握ったナイフでみりんに攻撃をするが、見事な身の切り返しで回避されてしまった。
隙のない攻撃を繰り返すアグル。それに対し、軍でしっかりと仕込まれた体術で冷静に受けるみりん。静と動、全く正反対のスタイル。力は拮抗し、お互い1歩も引かない。みりんが肩に傷を負えば、アグルが次に足に傷を負う。激しい消耗戦、ボロボロになりながらも、お互いに不思議と笑みがこぼれていた。
「あぁ…久しぶりに」「楽しいな…」
ブンっと槍を振り下ろし、アグルがそれを素早く避ける。二人の間に距離が出来たところで、みりんは攻撃を止めた。
「貴様の戦い方は苦手だ」
「奇遇だな。俺も戦いにくくてならねぇ」
「だから…これで最後だ」
暑かった空気が一変する。先程の氷の龍が周囲の空気を凍らせながらそびえ立った。
「なぁ…神の力でカミツキは魔法を使えるのに、その神の血が流れる俺らが魔法を使えない事に疑問を持ったことはねぇか?」
「憑神が居ないからだろう?」
「半分正解、半分不正解。使えないんじゃねぇ」
アグルの髪が溶けた鉄のように赤く光だし、火が上がっている。目は光を放ち、口からは炎が漏れ出していた。
「あえて使わねえんだ。憑神の加護で魔法を使うお前らカミツキと違って…」
アグルの顔にピシッと音を立てて割れた様なヒビが走った。
「俺ら半神は己の体で魔法を使う」
アグルは雄叫びを上げた。龍に跨り、みりんは最後の一撃を放つ。炎の魔獣と化したアグルがその身一つで迎え撃つ。2人の攻撃が合わさった瞬間、嵐のような蒸気が辺りを包んだ。
吹き飛ばされ、地に落ちたみりんが心底驚いた顔で座り込んだ。龍が消え去り、アグルだけが立っていた。
「私が…負けるなんて…」
アグルは顔を上げた。ヒビが大きくなっている。
「…いや、イーブンだ。これ以上力を使えば、体が耐えられずに俺は死ぬ。半神が魔法を使わない最大の理由さ…神の血が流れている分、力が強すぎて、肉体が追いつかない…」
フラフラとアグルも座り込んだ。
「だから、魔法を使う事も、使えると教える事も御法度なのさ。どうか、この戦いの事は心にしまっといてくれな…」
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白熱の戦い、お疲れ様でした。
「柘榴石」
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