【第1話】大洋の息吹(第2節)連れ集まる者達
OCEAN TRAVELERS
【第1話】大洋の息吹(第2節)連れ集まる者達
- 226
- 28
- 0
【第1話】大洋の息吹
(第2節)連れ集まる者達
ふと。行かねばならない、と。
読み耽っていた本をパタリと閉じ、愛しの姉を見やる。妹の視線を感じた姉は化粧をしていた手を一瞬止めて、にこりと。美しく微笑む。
「今日はどこに行くの?ラファ。」
流石お姉様、私の意図することを何でも汲み取って返してくれる。欲しいもの全て、言葉も愛もその身でさえも。
「……イケブクロ。」「あら。」
奇遇ね、と済んだ化粧品を片付けながら姉が問う。
「アナタもみたのね?」夢を、と。
不思議な夢だった。海中での暮らしに身を預ける自分の姿は海獣と化し、傍には姉と思しき海獣もいた。幸せに暮らしていた筈の海、しかし唐突に引きずり込まれた闇の中。その暗闇の中で神と思しき威厳に満ちた声を聞いたのだ。
「それで、」
机上をすっかり綺麗にした姉は
「あなたも海獣だったの?」「ええ。まさか姉様も?」
微笑み、私の頬を撫ぜる。
嗚呼、とても心地の良い温かな掌。叶うならばこの温もり、生涯誰にも渡したくない。私の為だけに、私の為に、
「ねえ歌って、姉様。」
甘えさせて欲しい。いつまでも。
部屋に響く妖しくも美しい旋律は、暫くの間2人の姉妹の心を狂おしい程の愛情で満たした。
私のサヨ姉様、誰にも渡さない。例えこの手でその身を引き裂く運命にあるとしても、決して。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「サメ?りんちゃが?」
うん。と隣を歩くナルに頷く。お互いに見た夢がどうにも似通っている。自らはサメの姿をしていたが、ナルはクマノミだったそう。海にいたのに突然真っ暗な世界に放り出され、謎の声を聞いたこと、更にはその内容までが同じであったことなんて。
「これはりんちゃのことが好きで好きで溜まらなくて、恐れ多くも同じ夢を見てしまう程に…」
「わかった、わかったからw でもすてらちゃんも同じ夢を見たんでしょ?」
すてらちゃんも推しです!と言わんばかりのナルの目付きに笑いながらも、彼女からの話にあったステラの夢について懸念を抱く自分がいた。
「あ、ナルちゃんだやっほ〜〜。」
ふわり、と前方から声がかかる。ステラだよーとほわほわ微笑む彼女はとても眠たそうだ……というか目を閉じながら歩いている。ナルは彼女とLINEでやり取りをしたと話してくれたが、果たしてあれは見えているのだろうか。
「あれりんちゃじゃん。おひさー!」「やよちゃ??」
その隣で見知った友人ヤヨがヒラヒラと手を振る。
一頻り再会の喜びを分かち合い、ふと3人の頭部を見やると、
「あれ、みんなお揃いの髪飾りつけてるじゃん。可愛い……いいなぁ。」
まるで3人の集合を喜ぶかのように、彼女らの頭の上で橙色の花が風で揺れた。
「へっへ〜ん、いいでしょー?うちら仲良し3人組やからねぇ?」
フッ、と。
突如として、何の前触れも無く周囲の音がシャットアウトされる。自らの置かれた状況を把握する暇もなく、急速に歪み始めた空間に引きずり込まれるように。
4人はその場から姿を消した。
Comment
No Comments Yet.