第三話 『緑の手』
BGM:さまるん シリーズ:『夢で逢いましょう』
第三話 『緑の手』
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第三話 『緑の手』
お相手…Kranke 様
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ぽかぽかと暖かくなってきた。
あまりの気温の変化に逆に風を引きそうである。
しかし、さっきの凍死しそうな寒さと比べればありがたすぎる暖かさで、私は気分も晴れ晴れしていた。
しばらく切り株の上でのんびりしていると、私の周りに小動物や小鳥が集まってくる。
あまり経験できない癒しイベントに、私の顔は自然と緩んだ。
しかし、はたと気づく。
もしかしてこの子たちは…食べ物が欲しいのでは?と。
「ごめんね、あげられるモノはないんだ。」
私の言葉を分かっているのかいないのか、そもそもエサ目当てなのかそうでないのかも分からないが、小動物や小鳥たちはウルウルとした可愛らしい目でじっと私を見つめてくる。
何となく居心地が悪くなってきた私の肩を、誰かが軽く叩いた。
「や。お困りかな?」
「困っているような、そうでもないような…?」
中性的な黒髪の人物が、私の後ろに立っていた。華奢な体つきから見て、女性…だろうか?
とにかく、その黒髪の人物は、私に笑いかけ、私と背を合わせるように切り株に座った。
大きな切り株だったため、二人座ってもまだ余裕がある。
「あなたは?」
「ふふ、知りたい?」
「んー…言いたくないなら言わなくていいかな。」
「ふーん?じゃあ言わないでおこう。好きに呼んでよ。」
「そう言われてもなぁ…」
私は雪が完全に溶けきった地面をジッと見つめながら呟いた。
黒髪の人物はどんな表情をしているのだろう。面白がっているのだろうか。
そんなことを考えていれば、近くで私を見上げていた小さな兎が、私の膝に飛び乗った。
「可愛い…」
「随分気に入られたみたいだね。」
「それは光栄だ。」
「…私の気分もいいから、面白いものを見せてあげる。」
"私"と自分を呼んだことを考えると、やはり女性なのだろうか…。
しかし、間違ってたら嫌だし、わざわざ聞くのも何だか失礼な気がするから、私は黙り込んだ。
「面白いもの?」
「うん。見てて。」
黒髪の人物はバッと両手を天に掲げて、「みーどーり!みーどーり!」と叫び始めた。
「??????」
私はあまりに謎な彼女?の行動に疑問符をたくさん浮かべてしまう。
しかし、その行動の意味は私にもすぐに理解できるようになった。
「みーどーり!みーどーり!」
周りの荒れ果てていた地面がどんどん緑色に染まっていく。
草花が咲き始めたのだ。
動物たちは嬉しそうに駆け回る。
「ほら!一緒に!」
「え?!み、みーどーり?」
「もっと!」
「みーどーり?」
「もっともっと!」
「みーどーり!!みーどーり!!」
私はもはやヤケクソな勢いで、叫んだ。
緑。緑。時々ピンクやオレンジ、黄色、青。緑。緑。緑。
「はぁ…はぁ…いつまでやるのこれ…」
「うーん、こんなもんか!」
やっと終わった春の儀式。
周りはいつの間にか暖かな世界が広がっていた。
「落ち着く…かも。」
「でしょ!面白いもの、気に入ってもらえた?」
「うん、わりと。」
「わりとって…辛辣~~!!」
そう言って、黒髪の人物は笑った。
私はその笑顔に微笑みを返しながら、近くに居た鹿に歩み寄る。
「あなたも嬉しいの?」
鹿はまるで私の言葉が分かっているかのように頷いた。
私は鹿の頭を優しく撫でてあげ、後ろに振り返る。
「あれ?」
黒髪の人物はいつの間にか居なくなっていた。
私は一瞬唖然としたが、きっと帰ってしまったのだろうと無理やり自分を納得させた。
「お礼…言えなかったな。」
名前も知らない黒髪の人物を思い、私は晴れ渡る空を見上げた。
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BGMお借りしました
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