拝啓 名前しか知らない母へ
こんにちは、突然ですが手紙を書く事にしました。
俺を産んで直ぐに元々体の弱かった貴方は亡くなったと1度だけ聞かされました。。父は子まで作った母を死んだ後は悲しみもせずむしろ恨めしそうに憎む様な人で、貴方は何故父と結婚したのか俺には理解出来ません。その父も、愛人と結婚した後は本当にどうでもよさそうだったけれど。
埃被った額縁に入れられていた亡き貴方は優しそうな顔をしてとても美しい人と記憶しています。何より、自身と同じ桃色の髪と赤い綺麗な瞳がとても印象的でした。まるで自分をそのまま女にした様な、それほどには似ていた気がする。貴方とは話した事も声を聞いた事も名前以上の事も誰も教えてはくれなかったから分かりません、本当に何も。それでも俺には貴方の存在はなんとなくと安心させられる様なそんな人でした。
嗚呼、貴方が生きていたら俺は普通に過ごして普通にこの国で生きていたかもしれないしもっとマシな性格をしていたかもしれません。夢の様な話、どうせもう叶わない事と分かっていてもせめて生きている貴方に一度だけで良いから会いたかった。
本当に叶わない事を毎年貴方の墓を見る度に願うのです。碌に知る事が出来なかった貴方の墓に毎年花を添えながら。
Comment
No Comments Yet.