✿五花ノ戦物語✿ 八輪目
一周年記念物語§幻想舞踏会§
✿五花ノ戦物語✿ 八輪目
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✿五花ノ戦物語✿
八輪目・噂の真偽
ボブ達がいなくなると、風華は踵を返す。
「さて、私は自室へ戻ります。
ゴリラさんと桃音さんは、掃除の続きをお願いしますねー」
「えええーーー」
孤と桃音の不満な声を気にする様子もなく、風華は歩いて行く。
「おみいさんは後で私の部屋に紅茶を届けてくださいます?」
「はーい♪」
各々が自室へ戻ろうとする。
「さて、私もイベント周回の続きを…」
「待って下さいレイカさん」
「私も帰ってコスプレ衣装の作成とコスメの研究を…」
「あきなとさんも待って下さい。」
孤と桃音がそれぞれレイカとあきなとの腕を掴む。
二人が指差す先には、
花弁に混じって紙と焦げた羽が散乱していた。
「お2人も!」
「手伝ってください!」
「「ええ~…」」
その日、庭の掃除は日が暮れるまで続いた。
~~~
「失礼します~、紅茶をお持ちしました。」
おみいが風華の部屋へと紅茶セットを運び、慣れた手つきでテキパキと紅茶を淹れる。
「どうぞ、姫様♪」
「ありがとうございます。…うん、いい香り。」
「…それにしても、あの噂はかなり広まっているみたいですね…。」
おみいが少し暗い顔でつぶやく。
「他所の家には好きに言わせておきましょう。
事実を知るのは、ほんの一握り。
私が信頼をおく仲間だけで良いのです。」
紅茶の波紋を眺めながら、風華は優しく微笑む。
「でも…もしも姫様に何かあれば…。青桜院家は…。
本当に姫様は…大丈夫なんですよね…?」
おみいが風華のそばで屈み、潤んだ瞳で見つめる。
「おみいは…心配です…。」
風華は手に持っていたティーカップを置くと、まっすぐと見つめ返す。
「優しい子ですね…。
私を…いえ、この青家を心配してくれるのですか。」
「もちろんです。だって…」
「…管理者にしておくには勿体ないほどの演技ですね。」
「!?」
おみいの目が見開かれるが、風華は顔色ひとつ変えずに続ける。
「きっと弐席から肆席の花族の監査を終わらせたのも貴女でしょう?
そして第伍席の前に、私達青桜院家の監査を始めたは良いが、肝心の噂の真偽が確証を持てない。
貴女がこの家での監査に手こずり時間をかけてしまっているので、
不測の事態に控えていたはなりさんを時間がない為か半ば無理矢理第伍席の監査として送りこんだ…
という所かしら?」
「………。」
おみいは俯いたまま喋らない。
「時間が無くなっていく中、今回の騒動は絶好のタイミングでしたね。
私へ直接聞くキッカケになりましたから。
しかし何度でも同じ返事を私はしましょう。」
室内にも関わらず、おみいの頬を風が撫でる。
「当主はこの私。風華です。
青桜院家は私が導きます。」
見据える青い瞳は、揺らぐことが無かった。
「…そう報告するしか無さそうですねぇ。」
おみいは観念したように、両手を挙げると数歩後ろへ下がる。
「何故私が管理者の一派だと分かったんです?」
「うーーーん、勘ですかね…?」
「うわぁ…隠密行動、そこそこ巧いはずなのに
自信失くしちゃいますぅ…。」
「うふふ、ごめんなさいねw
あとはそうね…紅茶が美味しすぎたのよ。」
「紅茶?」
おみいは首を傾げる。
「紅茶は茶葉だけでなく、淹れるための湯…つまり【水】も大切です。
貴女の淹れる紅茶だけ、茶葉が同じはずなのにとても美味しかったんです。」
冷めてしまった紅茶の残るカップの縁をなぞる。
「あら…そんな所からボロが…。」
「もう貴女の紅茶が飲めなくなるのは残念ですね。」
風華が少し寂しげに笑うと、おみいからは笑顔が消える。
しかしすぐに、明るい声で話し始めた。
「だって姫様にベッタリの夢羽ちゃんに聞いても、アナ…山乃さん達プラチナの皆に聞いても、
『噂なんてほってきましょう』の一点張りで…
おみいも仕事だから諦める訳にいかなかったんですよ~」
「それはそれは…w」
「まあでも姫様ご本人の口からお話を聞けましたし、噂はあくまで噂だった…
そう報告しておきます♪」
おみいが背を向けドアに手をかける。
「みーさん、もう行ってしまうんです?」
「そりゃ正体がバレちゃいましたし。私の本当の家はあの丘ですから…」
風華はおみいの背中を見つめる。
「…また、いつでも遊びに来て下さい。
家柄なんて関係なく。」
「………ありがとう、姫様。
ここでの時間、楽しかったです。」
こちらに顔を向ける事なく、扉を開けておみいは去って行った。
室内にひとりとなった風華は、溜息をひとつ落とす。
「噂の出所は…まあ大体わかってますが…
信憑性はかなり低い状態で出回っているのが救いですね。」
机に無造作に置かれた扇をじっと見つめる。
「噂だろうと、何だろうと、利用できるものは利用する。
……そうでしょ、未久?」
風華のひとり言は、誰にも聞かれる事は無かった。
✿九輪目へつづく✿
#幻想舞踏会1周年 #HALO #れるりり
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