§夢幻ノ箱庭§ 第七話~蘇芳と緑の祭典~
§幻想舞踏会§
§夢幻ノ箱庭§ 第七話~蘇芳と緑の祭典~
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§夢幻ノ箱庭§
第七話~蘇芳と緑の祭典~
七色ノ華広場の中央に位置する庭園に各隊の隊士が集まる。
国の繁栄を願い、七色ノ宝石へと歌を捧げる祭典が幕を開けた。
宝石が一際強い光を放つと、五つの都市の上空に映像が映し出される。
初めに映し出された闘技場は、【蘇芳の間】だった。
~~~
第一試合。
赤炎鳳凰隊は暁月、
黒闇夜叉隊は海月の二名が闘技場に現れた。
七ノ国発足後に黒ノ都市が設立した保安組織に所属する人物を初めて目にする人も多い。
必然的に海月へと注目が集まった。
「ふふんっ
保安組織 第十三班所属!
三姉妹が末妹、海月いっきまーす!」
満面の笑みで歌を奏でる。
歌声と共に影から鎖が飛び出してきた。
―…どんなに考えたって
答えが出てくるわけでもないし
青に包まれた朝は
昨日の僕にどこか似ていた
何かトクベツなことを
毎日探すのは疲れちゃうし
だからって何もないのは
イヤなんだからワガママだよね
世の中は溢れてる
さみしいとか、うれしいとか
そこに色がついたら
何か変わるかな?
「赤ノ国だった頃は僕達魔導騎士が治安を守ってたんだ。
相手が誰であろうと、僕の炎で焼き払ってあげるよ!」
暁は右手を前へと突き出し、歌声を自身の剣へと変えていく。
―…冷たい記憶と
空っぽの世界
足りないカタチを
縫い合わせたら
間違ってたこと
嫌ってたこと
まだ戦ってるんだよ
終わりはどこだろう
怖いくらい青い月が凛と鳴く頃
嘘吐きは希望と出会う
離さないで 私を奪ってよ
消えない罪に
消えない罰を
約束だから
暁月の突き出した手に、赤く光る片手剣が姿を現す。
海月の鎖が大きな弧を描きながら暁月へと襲い掛かって行く。
避けれるものは紙一重で交わし、見定めた数本のみを剣の樋や柄を巧みに使って弾く。
海月へと距離を詰めるべく暁月は走りだした。
暁月の臆すことのない行動に驚きを見せつつも海月は、怯まない。
弾かれ床に落ちていた鎖が再び動き出した。
暁月は鎖の発生源である海月足元にある影へと刃を突きたてようとした。
「!?」
しかし、切っ先がそれ以上動くことはなかった。
後ろから追い上げた鎖に腕は縛られ、身動きが取れなくなっている。
「あ、あっぶな…」
冷や汗を滲ませながら海月がつぶやく。
暁月も鎖から逃れようともがくが、剣で断ち切ろうにも腕が完全に拘束されていた。
「…これは打つ手なし。詰みかな…」
暁月の片手剣が消えてなくなる。
それは勝敗が決したことを示していた。
宝石が七色に光り、闘技場の上空に文字を映し出す。
第一試合
勝者、
黒闇夜叉隊 海月
~~~
試合はつつがなく進み、蘇芳の間は黒闇夜叉隊が勝利を収めた。
次に空へと映し出されたのは【緑色の間】だ。
第四試合。
神官となった朱の後任として黄ノ都市の宰相となったリンがこわばった表情で現れた。
神官五名は原則として闘技場に立会い祭典を見守る。
リンの視線と朱の視線が一度だけぶつかった。
一度だけ頷くと、対戦相手のさきを見据える。
「新宰相として恥じない歌を…」
―…あとどれだけ叫べばいいのだろう
あとどれだけ泣けばいいのだろう
もうやめて
わたしはもう走れない
いつか夢見た世界が閉じる
真っ暗で明かりもない
崩れかけたこの道で
あるはずもないあの時の
希望が見えた気がした
どうして
ブラックロックシューター
懐かしい記憶
ただ楽しかったあの頃を
ブラックロックシューター
でも動けないよ
闇を駆ける星に願いを
もう一度だけ走るから
歌声に呼応して周囲で放電による火花が飛び散る。
放電された力が地面へと伝うと闘技場の地面から黒い粉が生き物のようにうねりながら現れた。
「…電気で地面から集めた…?」
さきの水魔法は電気と相性が非常に悪い。
目の前の魔法に攻略の手口が無いかを見極めていた。
(電気かと思ったけど少し違う。あれは…)
「…砂鉄?」
「はい、その通りです。」
リンは砂鉄をなおも集めて量を増やしていく。
「私が操るは[磁力]。肉体強化術に併せて持つもうひとつの能力です。」
「電気じゃないかと思って安心したら、磁力かぁ…
でも電気を直接撃たれるよりは…」
さきは大きく息を吸った。
―…蝉時雨が
僕の心に冷たく響く
太陽を濡らして
ねぇ ずっと
今が茜色で染まり続ければ
夕も幸せだろう
夏が意地を張るほど汗ばんでゆく
この手じゃ君を繋ぎ止めておけない
あぁ 夜には消えてしまうの
恋によく似たアサガオの散る頃に
片手を高く掲げると水が円盤状に現れる。
歌のリズムに合わせて水は形を崩す事無く、回転を始めた。
速度はどんどん上がり遠心力により水は薄く鋭く伸びていく。
さきが自身が抑え込める遠心力の最大まで回転させた水を投げ放った。
リンは砂鉄を縦の形に変え防御の姿勢をとる。
さきの水魔法が触れた先から砂鉄を削り取っていった。
地面からの供給も間に合わず砂鉄は完全に水へと飲みこまれる。
水と砂鉄の入り混じったそれはリンの力で制御できる範疇を超えていた。
「肩に力が入りすぎちゃったかな…。」
リンの磁力はさきの水力に押し負けてしまった。
宝石が七色に光り、闘技場の上空に文字を映し出す。
第四試合
勝者、
青風八咫烏隊 水瀬さき
~~~
緑色の間は青風八咫烏隊の勝利で幕が閉じた。
今期の祭典が無事に終わる。
後夜祭や祭事の後処理であわただしく動く七色ノ華広場で、物語は動き出していた。
「…待ち合わせの場所はここのはず…」
独り言と共に、眠井は周囲に人影が無いか見渡す。
そこは五隊長会合室のさらに奥、最北端の崖だった。
祭典の喧騒が遠くでこだまする。
心地よい風が崖から都市へと吹き降ろしていた。
「ごきげんよう眠井さん。」
「こんばんは。」
突然背後から声がする。
振り返ると、そこには2人の女性が立っていた。
眠井は笑顔で歩み寄っていく。
「こんばんは。
お約束の品、ご用意出来ました。」
手に持っていたノートを二冊、それぞれに渡した。
「…魔力を込めれば眠井の魔法は発動します。効力は一晩続く筈です。」
「この記述量…大変だったでしょう。
本当にありがとうございます。
これで…」
3人を照らす夜空の月は、もうすぐ満月になろうとしていた。
…つづく。
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