どうして【lemon】
米津玄師
どうして【lemon】
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黄昏に見せられた悪夢で、封じていたものを思い出してしまった。
記憶の、奥の奥に閉じ込めていた悪夢を、
たった7分間の短い時間の中で、拒絶反応を起こすほどの悪夢。
全ては、今より昔の事。
醜女として生きていた時。
私は醜女の末裔に生まれた。
人から邪険にされ、虐められるのは最早運命だった。
父が醜男、母が雪女であった。
最初は仲睦まじく暮らしていた…然し、あの悲劇が起きるまでは。
いつもの様に顔を隠して街に繰り出し、母の仕事を手伝っていた。
母の仕事は、今で言うアクセサリーショップだろう。
自ら作った溶けない氷を使って、簪や首飾りなどを売り、生活の糧にしていた。
母に惹かれる男性も多く、母に近づいては氷漬けにされる客も少なくはなかった。
家に帰ると、何かを引きずったような跡と、水たまりのように広がった血。
奥に行くと、首を無くした父が逆さ吊りになっていた。
部屋の壁には、「討伐完了」という張り紙。
世界に絶望したのはこれが1度目。
外は、珍しく雨が降っていた。
私達は店を家にし、食い扶持を繋いでいた。
ある日、1人の男が母に交際を申した。
父を失ったショックで窶れていた母は、段々と元の美しさを取り戻し、その男と結婚にまで到った。
私も新しい父がいれば、母が笑ってくれる、また幸せな生活に戻れると、そう思っていた。
ある日、私は町外れの髪飾りを売っている店に行った。
母の誕生日に、赤い縛り紐を送ろうと思ったのだ。
今まで貯めた少ない小遣いを使い果たし、質のいい縛り紐を買った。
早く送りたいという気持ちが募り、足早に家路に着いた。
然し、異様な気配を感じた。
嫌に寒いのだ。
家から漏れる冷気に不安を覚えながらも、母と父が居る部屋を覗くと母が父を殺していた。
「お母さん…どうして…」
「……こいつが、私達の元の父親を殺した討伐師よ!!」
聞かされたのは衝撃の事実。
とうとう母は狂ってしまった。
全てを氷で閉ざし、街を冷気で包んだ。
その事が討伐教会にばれ、母は討伐された。
幸い、義理の兄だけは生き残っていたが、きっと拾の父を殺した私の母を憎んでいるだろう。
私の愛した人達は、ただ1人を残して全員消えてしまった。
私をただ1人、この冷たい世界に残して。
「…愛しては、いけない」
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