【声劇】『金卵』
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【声劇】『金卵』
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きみは、自分がどんな姿をしていると思う?
知らないまま死ぬ、幸せと恐怖。
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『金卵』
こもる音、泥んだ視界、緩い体温、
あぁ今代は卵か。
幾重の転生を忘れることなく持ち続けて、今はかれこれ何回目の生だろうか。
前回は麻色の毛をした猫。その前は戦国を駆ける黒い馬。
命は、いつか死んでしまう。永遠などありえない。
どれだけ愛されても、どれだけ貶されても、死するときはみんな同じ。
ただのカルシウム。
そんな、寂しい思いをするなら、何も知らないまま生きていたかった。
苦しさは、悲しみは、もう知っているんだ。十分なんだ。
これ以上知りたくない。殻の向こうからの音だけで幸せだから。
でも、これだけは知ることができてよかったと思う。
ひなたぼっこの気持ちよさ。
暖かくて、自分だけの優しい時間。
あの眩しくて、自由で、賑やかな光にもう一度、会いたい。
もう猫じゃあないけど、あの光なら、きっと。
死するときはみんな同じ。
降り落ちる光もみんな同じ。
…きっとこの花も、僕と同じ。
「きみは優しいね───。」
──そしてかわいそうだ。
「あなたは自分が何者なのか知らないのね。」
なにも知らないまま、世界の美しさを知れたなら。
それで僕は十分幸せ。
#三月声劇
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