舞姫②
【朗読】コトハ
舞姫②
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『雨夜の朗読会』その2です。
地名が連発するここは好きなんですが、
やっぱり難しかったです…!
ウンテルデンリンデン、ウンテルデンリンデン、ウンテルデンリンデン、ウンテルデンリンデン…
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或る日の夕暮なりしが、余は獣苑を漫歩して、ウンテル、デン、リンデンを過ぎ、我がモンビシユウ街の僑居けうきよに帰らんと、クロステル巷かうの古寺の前に来ぬ。余は彼の燈火ともしびの海を渡り来て、この狭く薄暗き巷こうぢに入り、楼上の木欄おばしまに干したる敷布、襦袢はだぎなどまだ取入れぬ人家、頬髭長き猶太ユダヤ教徒の翁おきなが戸前こぜんに佇たゝずみたる居酒屋、一つの梯はしごは直ちに楼たかどのに達し、他の梯は窖あなぐら住まひの鍛冶かぢが家に通じたる貸家などに向ひて、凹字あふじの形に引籠みて立てられたる、此三百年前の遺跡を望む毎に、心の恍惚となりて暫し佇みしこと幾度なるを知らず。
今この処を過ぎんとするとき、鎖とざしたる寺門の扉に倚りて、声を呑みつゝ泣くひとりの少女をとめあるを見たり。年は十六七なるべし。被かむりし巾きれを洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に驚かされてかへりみたる面おもて、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。この青く清らにて物問ひたげに愁うれひを含める目まみの、半ば露を宿せる長き睫毛まつげに掩おほはれたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我心の底までは徹したるか。
#ろーどくかい
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