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先週の雨はとても激しく、山の方では土砂災害が出るほどで、僕らが住む街では誰々の知り合いの家が土砂災害に巻き込まれただとか、あの雨で仕事が休みになっただとか、そういう話でもちきりだった。
僕らの学校も、2日間休校になった。
元々そんなに生徒数が多い学校では無いので、学校側も父兄もその辺には緩いのだ。
悪天候が続いたのは7日間で、休校になったのはその中2日だった。
普段観ることの出来ない午前中のテレビや、午前中なのに薄暗い部屋の中が少し新鮮だった。
僕はカーテンを開け、薄暗いながらも暗くはない部屋の中で読書に勤しんだ。
聴こえるのは雨の音や風の音、それから通りを走る車の音くらいのもので、それ以外は何も無かった。
環境音は心地のいいノイズとして僕の鼓膜を揺らし、脳のどこかの神経に届いている。
その振動は僕をとても落ち着かせてくれ、時には活字から目を離して目を瞑り、そんなノイズだけを聴く事に集中したりした。
雨の音は決して一定では無く不規則な連続だった。
アットランダムに続く音、音、音。
それは僕に何かを訴えているようにも聴こえた。
僕がそんなものに集中していたから、その音に気付くのに少し時間を要した。
玄関のドアを叩く音が聞こえるのだ。
それに気付いた僕は慌てて自室を抜け出し、玄関の方へ走った。
魚眼レンズからそっと外を覗くと、飯田先生が立っていた。
★
佐々田くんの家は一軒家のこじんまりとした平屋だった。
来て、しまった。来るはずではなかった。
学校は休みになったが、母も父もなにやら忙しいらしく、2人で朝早く出ていってしまっていた。
しばらく自分の部屋でぼんやりとしていたのだが、思い出すのは夫と息子の事ばかりだった。
普段は忘れているのだが、こんなふうにぽっかりとした時間があるとその事実が脳内を支配してしまう。
「なにもない」こと。
両親や遠くにいる弟、学校の同僚や生徒達では決して埋められない隙間。
普段は複雑な鍵をかけて仕舞っている心の奥にある痛みの記憶と感覚。
それは一度解き放たれると物凄い勢いで私の体内を駆け巡り、奈落の底へと誘う。
「オマエモ、コッチニ、コイヨ」
気付いたら私は雨の街を駆け出していた。
痛みから逃げるように。過去から逃げるように。
無意識に選び、着いた先は佐々田くんの家だった。一度家庭訪問で訪れた事があり、場所は覚えていたのだが、私は、どうしてここへーー。
混乱する頭とは裏腹に、玄関をノックする。
3回ほどノックした後、雨音でかき消されてるかも知れないと思い、強すぎず、しかしきちんと音が鳴るようにドアを叩いた。
こちらも、3回。
しばらく待って、もう1度。
またしばらく待ってもう1度叩こうかとした時、ガチャリと玄関の鍵が開く音がして、そろりとドアが開いた。
中には佐々田くんがいて、不思議な表情で私を見ていた。
「飯田、先生…?」
返事する間もなく、私は彼を抱きしめていた。強く、強く。
雨で体は冷えきっていたけれど、頭は妙に熱かった。
戸惑う佐々田くんを抱きしめながら、きっと私は泣いていたと思う。だけど涙は雨と一緒に流れてしまっているだろう。
(つづく)
https://nana-music.com/sounds/028b8e5a/
すいません、今回で終わらすつもりだったんですけどね…
Comment
5commnets
- syozopanda
- syozopanda
- syozopandaもう、パックさんのコメントが嬉しすぎて…( ´•̥̥̥ω•̥̥̥`)感謝感謝です><
- ドゥほんと音選びが綺麗で、重なっても歪んでないし、邪魔しあってもないし、いや、ほんと、いいっす、、よいっす!
- しま初めて90秒で読めた。゚(゚^ω^゚)゚。 ほんと新しいnanaの使い方だ 素敵っ