3時ばばあ
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3時ばばあ
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作者:日向ひなの
〖3時ばばあの話〗
およそ四十五前の話です。とある田舎の小学校に、怖い話が大好きなトモコちゃんという女の子がいました。トイレの花子さんや、理科室の動く人体模型、異世界に通じる合わせ鏡……怪談を教えあっては、クラスメイトの女の子たちと楽しんでいました。
そんなある日のこと。トモコちゃんは、親友のノブコちゃんから『3時ばばあ』の話を聞きました。
「『3時ばばあ』はね、3時になると3階の女子トイレの3番目の個室に出るおばあさんの霊だよ」
「え? 花子さんじゃなくて?」
思わずトモコちゃんは聞き返しました。トイレの花子さんなら有名です。すぐにおかっぱ頭と赤いスカートの女の子が浮かびました。けれど、おばあさんの霊なんて聞いたことがありません。初めて聞く怪談に興味津々になったトモコちゃんは、ノブコちゃんの手を取って言いました。
「ねえ、それ見に行ってみようよ!」
「ええ、怖いよぉ」
ノブコちゃんは嫌がりましたが、トモコちゃんが何度もお願いするので、ついに折れてうなずきました。
その日の授業が終わったあと、トモコちゃんとノブコちゃんは、急いで3階のトイレに向かいました。周りの子どもたちが帰っていく中、二人はトイレの前で『3時ばばあ』を待ち続けました。
けれど、幾ら待っても『3時ばばあ』は現れません。トモコちゃんが隣の教室の時計を見に行くと、3時52分になるところでした。
トモコちゃんはガッカリして、ノブコちゃんを呼びにトイレに向かいました。
その時です。3番目の個室の下からゆっくりと、染みのような影が広がり始めました。トモコちゃんのものでもノブコちゃんのものでもないその影は、じわじわと二人に向かって伸びていきます。
影に飲み込まれたら駄目だ。直感的にそう思ったトモコちゃんは、ノブコちゃんの手を掴んで走り出しました。トイレを出て、1階まで降りてきた二人は、顔を見合せて青ざめました。
それからというもの、トモコちゃんが怖い話をすることは無くなったそうです。
「誰に話しても勘違いだって言われたけどね。断言するよ。あの時私が影に触れていたら、あんたはここにいなかった」
そう話を締めくくると、母──智子は、可笑しそうに声を漏らしたのだった。
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