🃏 未来に賭ける 🎯
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第1幕『釈放』
世界の最下層に隠された街、地獄街。それ即ち、罪人として生を終えた者が死後行き着く場所。彼等は悪魔との従属契約を結び、娯楽を提供することを義務付けられていた。
そんな街の中心には、一際威圧感を放つ角張った白い建物が鎮座している。この場所こそ、地獄最大の賭博場『カジノハウスWITH』である。ご想像の通り、此度の物語はこの場所から幕を開けることになるのだった。
WITHは今宵も盛況だった。豪華絢爛な様を呈する玄関口のファースト・フロアは、酒と欲に塗れた悪魔と罪人でごった返している。だが、ひとつ階段を下れば、そこは別の世界かのように静まり返っていた。それもそのはず、通常カジノWITHの地階にあるものと言ったら、金庫と物置小屋、そして悪魔に対し曲事をはたらいた罪人を封印しておくための独房くらいしかないのだから。
だが、今晩の地階は少々規格外のようだった。悪魔を殺した罪で八十年間も独房に放り込まれていた罪人が、ついに刑期を終えて上階へ復帰するらしい。釈放される時を刻一刻と待ち侘びているその罪人は、豊かな金色の髪を揺らして鉄格子を掴んでいた。
「あ~、長かった。悪魔一人手にかけたくらいでこんな目にあうなんて、思っちゃいねえよ」
彼の名はパリカ。星を思わせる煌びやかな容姿の少女体を持つ男性で、黙っていれば宝石のように美しいが、内面には鋭利な刃物を隠し持っている。呆れるほど娯楽と暴力にしか目がない男だった。八十年前、当時地獄街を仕切っていた上位の悪魔の命令に背き、あまつさえ殺めてしまった罪で長い間独房行きとなっていたのだ。
パリカはうだうだと恨み言を連ねた後、僅かに口を開くと、煌めいたその風貌からは想像出来ないほど趣味の悪い笑い声を洩らした。
「でも、これでようやく表舞台に返り咲ける。罪人も悪魔も手玉に取ってなんか面白ぇことしてえなぁ」
声は静まり返った地階の壁に反響して、嫌に長く響いていた。その残響が消えた時、不意に地階の扉が開かれた。上の階の罪人が、パリカを迎えに来たのだろうか? 差し込む光が逆光になり、姿はよく見えなかったが、ひとつのシルエットが間違いなくパリカの元へと向かってきた。
「なんだ、釈放は明日の朝かと思ってたぜ? 早かったな。まあ早いに越したことはねえ。さっさと出してくれ」
その人物に向かって、パリカはひらひらと手を振った。だが、影はパリカの目の前で立ち止まったきり、一向に動こうとはしなかった。何かがおかしいと気がついたその時には、パリカは鉄格子の隙間からその人物に胸ぐらを掴まれていた。
「なっ……なんだお前!? 離せよッ!」
突然のことに驚いて、猛犬のごとく抵抗するパリカ。しかし、掴んでいる手は一向に緩む気配がない。目と鼻の先にあるはずの相手の顔は、未だ闇のように平坦な黒で覆われていた。
「何とか言えよっ、ぐっ……」
徐々に首元を締めあげられ、威勢の良かったパリカの声は、浅く苦しげな物へと変化していく。と、その時、不意に口元に人肌の何かが触れた。パリカがそれを認知する間もなく、影は突然手を離すと、目にも止まらぬ速さで扉の外へと出ていってしまった。
だがその瞬間、パリカは影の後ろ姿をはっきりと認識することができた。靡く光沢のある髪と、真っ白な腕。背に広がる大きな翼。それはまるで──
「天使……?」
口から漏れ出た単語は、凡そ地獄街とは縁の無さそうな存在を示すものだった。けれどあの風貌は確かに、天使と呼ぶに相応しい特徴を持ち合わせていた。何故、天上の者が地獄にいるのだろう。いや、それ以前に、つい先程のアレは一体なんだったのだろうか。パリカは自身の口元に指を当てると、記憶を頼りにあの感触を思い返す。
「間違いねえ。あの天使、俺にキスしたな」
ますます意味がわからない。パリカは真面目な顔で「俺が可愛すぎるから? 天国まで噂いっちゃった?」と間抜けで短絡的な言葉を発した。すると、またもや地階の扉が開け放たれた。思わず身構えたパリカだったが、今度現れた人物がよく知った者であると分かった途端、瞬時に警戒を解いた。
扉を開けて入ってきたのは、WITHのオーナー、カミリアだった。蝶を模した不気味な仮面がトレードマークの彼女は、表情がよく見えぬ代わりに、うるさすぎるほどの声量と忙しないジェスチャーで持ち前の陽気さを示していた。
「再会にsalute(乾杯)! あぁ、お久しぶりですねぇパリカ!八十年の間、しっかり反省はできましたか? 」
「うん、俺マジでいい子になったよ。めっちゃ聖人になった。早く出して」
「アッハッハ! その様子を見るに独房へ入れた意味はあまり無さそうですねぇ! けれどまあ良いでしょう。どの道地獄の罪人が更生することは不可能の代名詞ですからねぇ!格好だけ取り繕っていれば万々歳です。一週間くらいは大人しくしてくださいね!」
カミリアは可笑しくて堪らないといった様子でペラペラと口走ると、ジャケットの内側から独房の鍵を取りだした。
「今日はもう店仕舞いをしますが、明日からはディーラー権余興係としてセカンド・フロアへ戻っても良いですよ」
「さんきゅ、オーナー。ね、アイツら俺が帰るの楽しみにしてた?」
独房へ入る前、セカンド・フロアで共に働いていた仲間たちの顔を思い出しながら、パリカはカミリアに詰め寄った。カミリアは少しの間首を傾げていたが、やがて溌剌とした声でこう言った。
「いやぁ失礼! 貴方の復帰を伝えることをすっかり忘れていましたよ! まあ皆さんそれなりには喜んでくださるのでは???」
「はぁ~? そりゃねえぜオーナー。WITHの看板娘のご帰還だってのによお」
独房から出たパリカは、そのままカミリアにしなだれかかるようにしてスキンシップを求めた。カミリアは幼い子どもの相手をする要領でパリカのハグに応じると、そういえば、と口を開いた。
「私が来る前、何やら声高に叫んでいらっしゃいましたが、もしやもしや、精神に異常を来たしていらっしゃる??」
「趣味悪ぃな何で楽しそうなんだよ。そのことなんだけどさ、オーナー俺のこと信じるって約束してくれる?」
「時と場合によりますねぇ」
「あっそ。じゃあ冗談半分に聞いといて。あのさ、俺さっき天使に会ったんだよ。で、そいつにキスされた」
「…………」
パリカの話を聞いた途端、カミリアは彫刻のように固まったまま数秒間動かなくなった。しかし、急に肩を震わせたかと思うと、今度は割れんばかりの大声で爆笑し始めた。
「アハハハッ! 今、なんと!? なんと仰りました!?天使! フフフフ、やはり頭のどこかが故障してしまったようですねぇ大いに結構! 罪人とはそうでなくては面白くありません!」
ひぃひぃと脇腹を抑えながら、カミリアはもう片方の手でパリカの肩を何度も叩くと、「久しぶりに大笑いをしました。感謝します」と半笑いで告げ地階を去ってしまった。台風のような一連の動作に、言葉を挟むことすら許されなかったパリカは、頬をふくらませて口裏で負け惜しみを呟いた。
「ったく、頭イカレてんのはどっちだよ」
だが、カミリアが冗談だと思ってしまうのも十分に頷ける。あの体験をしたパリカ自身ですら、まだ夢だったのではないかと疑っているくらいなのだから。
「もっかい会って、どういうつもりなのか問いたださねぇとな」
カミリアの出ていった経路を追いながら、パリカは自分の心が高揚していることに気がついた。
「どうせならアイツらも巻き込んでやるか。こちとら気が遠くなるほどおあずけ食らってんだ。楽しくやろうぜ」
そう零して舌なめずりをすると、パリカはリズミカルに残りの階段を駆け上がった。
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「それで、天使を捕まえたいって話に行くわけだね。荒唐無稽だな」
手入れされた赤髪を気だるそうにいじりながら、目の前の女は呆れたように苦笑した。
「でも君のことだから、面白くしてくれるんでしょ」
「まぁな。手伝ってくれよ、ロゼッタ」
パリカが差し出した手を、ロゼッタと呼ばれた女は躊躇することなく握り返した。パリカが地獄へやってきた時から、彼女はパリカの一番の理解者だった。
「私に出来ることならね。でも、どうやって天使を誘き寄せるつもり? アテはあるの?」
「さぁ? だけどどうせやるからにはスケールでかくしたいだろ。いっそのこと神殺しでも企んでみようかと思ってさ」
さらりととんでもないことを口に出し、パリカは睫毛を伏せてピースサインを掲げてみせる。ロゼッタは一瞬目を丸くしたが、やがて口元に手をやって静かに肩を震わせた。
「ふふっ、そんな突拍子もないことを考えるのは君くらいだよ。……して、君はこの謀反に何を賭ける?」
カジノの人間に染み付いた決まり文句。ロゼッタは事もなげに神殺しの代償を問うた。意地悪な視線を寄越す彼女の目の前で、パリカは迷うことなくニヤリと笑ってこう口にした。
「地獄街。俺はこの街を賭ける」
それはロゼッタが予想だにしなかった言葉だった。相当肝が座っているはずの彼女は、この日久しぶりに芯から声を上げて笑った。
「あははっ、そんなことしたら間違いなく消えちゃう運命を辿るだろ。何でそんなに自信満々になれるんだよ。……ふふ、でもなんか良いね。パリカはそうでなくちゃ」
笑いすぎて流れた涙を拭いながら、ロゼッタはパリカの深い青の瞳を見つめ、唇の端を僅かに引き上げた。
「良いよ。私も君に名を連ねる。罪人が生き残る未来に賭けよう」
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〖LYRIC〗
🔷勘違いの言葉を
ただただ叫んでここに来ました
怒鳴って成ったこの歌も
アナタなら信じてくれますか?
👗「やっぱいいや」の続きを
アナタと見たいと思いました
🪅未来に貰ったこの道を
心から信じていいんですか?
🎰心無い 名も無い 美徳も知も無い奴が
やいやいまた言ったって
📱悪いけど全部が飯の種だから
一層儲かるんだ
🐺でも淡々と至極真っ当な
道を闊歩してたって完璧はない
🍷何度避けたって止んだりしない
批難 批判の五月雨
🔷そうですか
じゃあもういいから全員黙れ
真夜中以外でも快晴
俺は夜なんて駆けない 未来に賭ける
🧪傷付いた想いさえ燃料なんだ
才能や喉を枯らさずにくたばる
冗談じゃないだろ
❤️🔥そうアタシは半人前 ブサイク ただ凡人
転生さえ願った業人
未来 未来に手を振り連打
🃏未来 未来に手を振り連打
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〖CAST〗
🔷パリカ(cv:桐生りな)
https://nana-music.com/users/6037062
❤️🔥ピオニー(cv:オムライス)
https://nana-music.com/users/1618481
🧪ジョゼ(cv:サラダ)
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🪅ムユ(cv:Neumann)
https://nana-music.com/users/10462832
🐺ラウル(cv:らむ)
https://nana-music.com/users/10320255
📱イオ(cv:yuma*)
https://nana-music.com/users/2381215
👗ヤーナ(cv:まぁる。)
https://nana-music.com/users/2692190
🎰カミリア(cv:ヒイロライカ)
https://nana-music.com/users/9203821
🍷ロゼッタ(cv:日向ひなの)
https://nana-music.com/users/2284271
〖ILLUSTRATOR〗
秋ひつじ
https://x.com/akhtj0801
ラムネ
https://nana-music.com/users/7020177
ゆん
https://nana-music.com/users/7839481
〖MOVIE〗
ー寝音ー 様
〖INSTRUMENTAL〗
syudou 様
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〖NEXT STAGE〗
‣‣第2幕『パリカとロゼッタ』
https://nana-music.com/sounds/06bd7044
#GAMBLING_WITH #syudou #ギャンブル
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