ミザン
バルーン&ぬゆり
ミザン
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📖Dear My Fairyland📖
第5話『リトル・プリンセス』
アメジストのような瞳の少女は、真っ白な椅子に腰掛けたまま微動だにせずエイミーを見つめています。
「あなた、誰よ?」
その鋭い視線に耐えかねたエイミーが強い口調で言うと、少女は一度だけ僅かに微笑むと、無駄のない動きで椅子から立ち上がりました。そして、淑やかにエイミーの側まで歩いてくると、そっと息を吐きました。
「ごめんあそばせ。たった今からこの場所は、あたしメアリー・レノックスの所有地とさせていただきますわ」
「なんですって? 勝手に決めてもらっちゃ困るわ。さてはあなた、意地悪なノーブルね?」
ゆったりと話し出すメアリーに、エイミーは噛みつくような勢いで答えます。メアリーは少しだけ驚いて目を開きましたが、次の瞬間きつくきつくエイミーを睨みつけました。
「なんて野蛮な言い方かしら。あなたも元はノーブルだったなんて信じられないわ。……まあいいでしょう。明日になればこの場所にはあたしの護衛がつくの。安っぽい花壇も小屋も壊して、あたしたちノーブル専用の東屋を作る予定なのよ。素敵でしょ?」
「そんな、勝手に……!」
「この場所は私たちが先生方から許可を取って使っているのよ。いくらノーブルだからって、勝手はおよしなさい」
花壇を壊すと聞いた瞬間、ベスの目には大粒の涙が溜まりました。ジュディはすかさずベスを守るように立ちはだかると、大きな声で反論しました。背の高いジュディが怒る姿は、普通の人ならば気圧されてしまう勢いでしたが、悲しいことにメアリーには全く効きませんでした。
「まあ怖い。これだから特待生って嫌なのよ。……今日はあのにんじんちゃんはいないのねえ? あの子にも伝えておいて。この場所には今後一切立ち入らないでって」
メアリーは、アンの髪をからかう意地悪を口にすると、悔しさで言葉に詰まってしまった『物語クラブ』の少女たちをさしおいて、校舎の方へと歩いていってしまいました。メアリーの足音が完全に消えてしまうと、エイミーはかんしゃくを起こして大きく地団駄を踏みました。
「何なのよあの子! 権力を振りかざして、あたしたちから一方的に取り上げるなんて酷すぎるわ。それに、アンが一番気にしていることを、あんな風に言うなんて……!」
エイミーは顔を覆うと、その場でわっと泣き出してしまいました。その背中をさすりながら、一人落ち着いていたメグは、眉を寄せて目を伏せます。
「大丈夫よ、皆。あの場所が使えなくなっても、紙とペンさえあればなんだってできるわ。……ベス、あの花壇はどうにもならないかもしれないけれど、他の場所ならきっと素敵な花壇を作れるわ。私の部屋に幾つか花の苗があるの。美化委員会で使ったものの残りよ。良ければ今度一緒に中庭のお手入れをしましょうね」
一人一人に声をかけ励ますメグは、まさしく皆のお姉さんでした。メグのおかげで皆の気持ちはだんだんと落ち着いてきました。と、その時、校舎の方からパタパタと慌てたような足音が駆けてきました。皆が振り返ると、そこには藍色の美しい髪を持つ色白の美少女がいました。
「あなたは誰……?」
「私はセーラ。三年のセーラ・クルーです。友達として、メアリーのことを謝らせてほしいの。本当にごめんなさい」
「あなた、メアリーの友達なの?」
訝しむようなエイミーの視線に、セーラと名乗った女の子は申し訳なさそうに頷きました。
「ええ。でも、あなたたちを邪魔するつもりはないの。あなたたちの居場所を取り戻せるように、私も頑張ってみるわ」
「ふうん。メアリーは意地悪だけど、セーラはすっごく良い子なのね。なんで友達なの?」
すっかり元の調子に戻ったエイミーは、あっけらかんとした態度でセーラに尋ねました。慌ててメグが止めようとしましたが、セーラは「良いのよ」と言って首を横に振ると、困ったように眉を下げて微笑みました。
「メアリー、昔はあんな子じゃなかったのよ。私よりもずっと綺麗な心の持ち主だったわ。でも……」
「でも?」
エイミーが聞き返すと、セーラは突然我に返ったように息を飲みました。
「ごめんなさい、私ったら……。あなたたちに言っても、困らせてしまうだけだわ。どうか今言いかけたことは忘れてちょうだい。それじゃあね。ごきげんよう」
セーラはスカートの裾をつまんでしなやかにお辞儀をすると、丁寧に、それでいて足早にエイミーたちの元を去っていきました。
「大丈夫かしら。あのセーラって子」
ぴんと伸びた背中に向けて、エイミーがぽつりと呟きましたが、誰もその声には答えられませんでした。
その晩、エイミーが寮の部屋に戻ると、程なくして部屋の扉がノックされました。扉を開けると、そこには萎れた花のような表情のアンが立っていました。いつものお転婆で賑やかな姿は、今はどこにもありません。
「エイミー、今夜だけ一緒にいてもいいかしら? あたし、どうしても眠れそうになくて」
「もちろんよ。あたしも同じ気持ちだったから」
二人はベッドに腰かけると、手を繋いで窓の外の月を見上げました。反対になった三日月は、もうすぐ新月の日が来ることを示しています。
「あたしたちのこれからも、新月のようにならないといいけど」
アンは呟いてエイミーの手を強く握りました。エイミーは何も言わず、ただ同じだけの強さでその手を握り返したのでした。
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『ミザン』
️🔒メアリー・レノックス(CV:はいねこ)
🛋セーラ・クルー(CV:なつ)
️🔒形には決して残らない
酷く脆い確かな傷が
今も心の隅で嗤う
馬鹿らしく見えますか
🛋あの日はいつか記憶になる
笑い話に変わってしまう
在るべき姿に戻るだけ
寂しさは止まないね
️🛋今この悲しみが
️🔒茶番にも見えてしまう
🛋確かな物があるのを
️🔒探している
️🔒あなたの優しさが
後ろめたくなって
🛋いつか愛は毒となった
️🔒息が止まるほど
🛋心を見透かして
️🔒🛋そしてこんな夜を終わらせて
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📖次回
第6話『月刊ディケンズ小説大賞』
6/22 20:00 公開
#Fairylandの世界 #ミザン #バルーン #ぬゆり
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