4/6はクライ先生のバースデーなので、殴り書き小話と非公式お歌を投稿します♣️
クライ先生お誕生日おめでとう🎂
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一夜にして何もかもが無くなってしまった。私が所属している研究所が闇の魔法使いに襲われ、保護や研究していた魔法動物も、同僚も、ほとんどが亡くなってしまった。どうして私が生き残ってしまったんだろう。先輩や動物たちの代わりに私が死んでいれば、よっぽど世界のためになっただろうに。
病室でそんなことばかり考える。一番可愛がっている子を守ろうとして、黒魔法使いの攻撃を目に食らってしまった。その場で魔法を使って回復しようとしたが、間に合わず、片目は失明。顔に大きなケロイドと、魔法の影響で赤い模様が浮かび上がってしまった。 目の前の命と、自分のことに必死で、透明化を使って研究室から無我夢中で脱出した。けれど急激な温度変化でその子は命を落とした。私の腕の中で冷たくなってしまった。かくいう私も全身火傷や傷まみれな事もあり、脱出後はすぐ病院へ搬送された。腕の中で命が燃え尽きた瞬間涙が止まらなくなり、救助に来てくれた誰かに見つけてもらうまで、私はその場から動けなかった。そして誰かが私を助けてくれようとした所から、意識がない。目が覚めたら病院のベッドの上だった。だからその子が今どこで眠っているのか、私には分からない。
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傷も大方癒え、退院してまずおこなったのは、襲撃に関しての聞き取り調査と現場検証。恐ろしいことに、闇の魔法使い達は大半が捕まっていないらしい。覚悟はしていたものの、崩壊した研究所を見ると酷く動揺した。この炭は建物のものか?それとも──
そう考えるだけで吐き気がした。休憩を挟んでもらいながら何とか現場検証を終え、久しぶりに自宅に帰った。最近はずっと研究室に篭もりっぱなしだったので、自宅に何か食べ物があったかもどうか分からないが、あってもなくても、今は何も喉を通らないので関係は無い。溜まりに溜まった郵便物を抱えてドアを開ける。魔法で服を着替えて椅子に座る。郵便物を仕分けしていると、母からの手紙があった。動物の事で手一杯の母が連絡をよこすとは珍しい。シンプルな封筒から真っ白な便箋を取り出す。
『お久しぶりです。元気にしてますか。研究室に篭もりっぱなしになってませんか。ちゃんと食事をとっていますか。お母さんは元気ですので心配しないでください。
このまえお父さんが貴女の体の事を心配していましたよ。でも恥ずかしいから貴女には伝えるなって。おかしいでしょ。それで自分が亡くなっちゃうんだから笑えないわ。
病気のこと、貴女には絶対言うなって言われてたの、ごめんなさいね。貴女の仕事を邪魔したくないって言って、手紙で知らせろって言われてたの。最期の頼みだって言われたら断れなくて。ごめんなさい、本当にごめんなさいね。』
文章を読むのは、こんなに難しかっただろうか。
私は何度も何度も読み返して、そしてその手紙の差し出し日を見る。
「……一ヶ月前……」
私の涙か母の涙か、手紙の文字が滲んでいた。私はただひたすら、泣くことしか出来なかった。
◇ ◇ ◇
それからの私は何をする気力も出ず、家でただ泣く日々を過ごしていた。けれどずっと引きこもっていたら人間は死んでしまう。飢えもそうだし、気持ちも滅入る。私は少しずつ生きるために、動き始めた。まずは食べ物を食べる。そして外に出て日を浴びる。ポストにはまた郵便物が溜まっていたけれど、今は読める気がしなかったので、素通りした。母の手紙の返信は未だできずにいた。父が死んだ実感がない。自分の気持ちを、なんと書いたらいいのか分からなかった。ただ日々を過ごして、何とか日常を取り戻そうとした。何も無いけれど、傷を癒すために必要な時間だった。
ある満月の夜、私はふと思い立ってフィールドワークに出かけた。幼い頃から私は突発的に行動することがあったが、まさにそれだった。
遠い、遠い、誰も私を知らない土地へ。
私は以前から興味があった、神秘的な森の奥深くへ向かった。この森は龍が出るのだという。危険だとか、滑落注意だとか、そういった看板は全て見て見ぬふりをした。龍に会いたい、ただひとめ見るだけでいい。死んでしまうのなら、そういう運命だったのだと終わりを受け止めよう。そう思いながら、必死に森を進んだ。暗い森の闇は深く、想像以上に力強く生きていた。今すぐにでも飲み込まれてしまいそうで、私は久しぶりに心臓が高鳴った。
奥へ、さらに奥へ。きっとこの先に龍はいる。
ぬかるんだ地面を踏みしめながら、ただ歩く。ふとガサガサと草木が揺れる音がして、そちらを振り返る。小さな生き物だろうか。気になって音に向かって歩き出すと、突然視界がひっくり返った。あると思った地面が無く、そのまま急な坂道を転がり落ちる。身体中を打ち付けながら、なんとか頭を守る。やっと止まった時にはどこもかしこも傷だらけだった。なんとか上半身を起こし辺りを見回すと、そこは幻想的な湖の近くだった。鈍い痛みのおかげで少し目が覚める。盲目的に龍を目指していた自分を、客観的に見つめられた。体を起こしているのもしんどくて、近くの木に背を預けて座る。無様な姿を見下ろして、思わず笑いがこぼれた。
「……はは」
一人で衝動的に家を飛び出して、このざまなんて。なんでもっと上手に生きることが出来ないんだろう。大自然の綺麗な景色を見ているのに、自分が情けなくて悲しい気持ちになる。しばらく動けそうに無くて、私はしばらく座り込んでいた。
どれくらい時間が経ったか分からない。もうすぐで夜が明けそうな気がする。ひんやりとした空気に身を震わせていると、大きな何かが動く音がした。地面を、何かが這う音。どくんと心臓が高鳴る。神聖な魔力を感じた。木々の隙間から姿を現したのは、龍と蛇を合わせたような姿の魔法動物。
「……キタマツミ……龍の正体は、あなただったんですね」
するり、するりとこちらにやってくる。敵意は感じない。そもそもキタマツミは警戒心の高い魔法動物だ。人の前に姿を現すことは基本ないハズだ。ならばなぜ、私の前に現れたのか。
目の前にやってきたキタマツミの黄色い瞳はこちらをしっかりと捉えている。飲み込まれそうな、澄んだ瞳だ。心を見抜く能力があるらしいが、確かに、この瞳に隠し事は出来なさそうだ。綺麗な瞳を眺めていると、キタマツミが瞬きをした。ぽたり、と透明な雫が零れる。私の代わりに泣いてくれているみたいだ、と思った。初めて出会ったはずの魔法動物は、まるで私を慰めるかのように擦り寄ってくる。キタマツミが零した涙が私に触れると、傷も疲労もどこかへいってしまった。
「……慰めてくれるんですか、ありがとうございます」
キタマツミはくるる、と甘えるように鳴いて、私に、寄り添ってくれた。
それが、私とキタマツミ──サージュの出会いだった。
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