作品第1
語り部:○○
作品第1
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«台本説明»
何処かで実在したかもしれない男の、葛藤と選択。
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男は奔(はし)っていた。
立ち塞がる者は全て斬り伏せ、落とした敵陣は数知れず。
手元の刃(やいば)ひと振りで戦況を覆すその剣技(けんぎ)は、見る者の目を奪うものであった。
焔(ほむら)を背に駆ける姿が、数多(あまた)の期待を集める。
しかし男はいつも思った。
こんな自分を何故(なにゆえ)讃えられよう。
尊敬と賞賛で集まった配下の殆どは、共に帰還する事無く散っていった。
ある者は動けぬからと置き去りにした。自ら肉の盾となった者もいた。皆(みな)がこちらを見ては安堵(あんど)していた。
この顔はいつも、面をしていたというのに。
周囲には必ず誰かが居たが、心は人知れず孤独であった。
引き摺るものが根を張るが如く伸びゆく。
それが己を縛る悔恨の鎖だと気付いた男は、ひと言だけ告げた後(のち)、静かに歩きだした。
その所在(しょざい)を知る者はない。
だが、名乗りもしない男が、何人(なんびと)の命も取らず人助けをして渡り歩いたというのは、今も多く耳にする伝話(つたえばなし)の一つである。
Comment
1commnets
- いむら台本、お借りします。 こだぬきさんの台本、かっこよすぎます。