Because
The Epic of Harmosphere 第3章
Because
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第3章 epilogue「そして、生きていく」
「へカティア先生さようなら~!」
「さよならー!」
「気を付けて帰って下さいね……ほら、足元に気をつけて!」
へカティアに腕をちぎれんばかりに振りながら子供たちがぱたぱたと走り去っていく。北の国の短い春は訪れたばかりで、とけかかった雪に子供たちが足をとられる様子をへカティアはハラハラと見守った。
「お~い!みんな、今帰るのか?」
すると頭上から声がふってくる。
へカティアが空を見上げると、金色の髪を春の陽射しに輝かせながら──その髪は出会ったころに比べるとかなり短くなってしまったし、服装も質素なものになったけれど──相変わらずの溌剌とした笑顔で箒にまたがっているフレイが見えた。
そして、そのまま危なげなくふわりと軽やかに地面に降り立とうとして……そのままつるりと雪に足を滑らせた。
「わっ!」
「わーっ、フレイだっせえ」
「転んでやんのー!」
「このっ……悪餓鬼どもが~!」
フレイが軽く拳を振り上げて見せると、子供たちはきゃらきゃらと笑って走り去っていく。子供というのは本当に元気だ。
「ったく……年々生意気になるな、あいつら」
「それだけ心を許してくれてるってことなんじゃないの?お姉さんのお墓参りどうだった?」
フレイアが宿っていた人形は、今はフレイの杖としての機能は失い、南の国に埋葬されている。箒に乗れるようになったフレイはこうして年に2回ほど南の国にお墓参りに行くのだ。
「向こうはもうすっかり春だったよ。ほらお土産」
「わ、美味しそうな野菜とハーブ。やっぱり南の国は土壌が豊かね。今日はシチューかしら」
「やった!へカティアのシチュー美味しいんだよな」
うきうきとした様子のフレイだったが。
「見事な着地だったな」
その声にぴしりと笑顔のまま固まった。
「シ、シリウス……今日は出歩いて大丈夫なのか?」
「お陰様で。最近は暖かい日が多いからな」
「そ、そうか~!よ、良かったな……」
「それに……まだまだ未熟な弟子たちがいるから部屋で寝込んでるわけにもいくまい」
袖口から覗くシリウスの手足には痛々しい黒い痣が見えるが、そのふるまいは昔と変わらず堂々としている。その胸元にはお揃いのネックレスが二つ陽光を反射していた。
片眉をあげてじとりと睨むシリウスに、フレイは降参とばかりに両手をあげる。
「あ、あれは雪で滑っただけだって!箒の操作はもう問題ないって知ってるだろ!」
「そうやって慢心するから、いつも失敗するんだろう?全く、雪に滑って転ぶ魔女がいるか……今日はまた特訓だな」
「え、えぇ~!?帰ってきたばっかりだぞ!シリウスと特訓をするなら、せめてへカティアも付き合ってくれよ!」
フレイは捨てられた子犬のような目をへカティアに向けるが、へカティアはあっさりと首を振る。
「私は次の授業で使う教材を作らないといけないから。気候変動について論文も書きたいし」
師匠の記録と照らし合わせてみると今年は暖冬になりそうなのよね、とへカティアは手元のノートを開きながら答える。
幼い頃には既に古びていたノートは、いまや書き込みで真っ黒になりボロボロだ。けれどへカティアにとっては世界一大切な「杖」である。
「諦めるんだな。師匠の教えを広めるのはへカティアの悲願だから、邪魔は出来ないだろう」
「う、うぅ……そうだな……」
すっかり肩を落として涙目でしょんぼりとするフレイに、シリウスとへカティアは顔を見合せてくすくすと笑う。少しいじめ過ぎたかもしれない。
「……とはいえ、積もる話もあるだろう。まずはお茶でも入れて一息つこう」
「フレイの好きなクッキー、買っておいたよ」
「うん!実は今回、南の国に向かう途中で雨に降られて、星うつしの湖って所で雨宿りしたんだ。名前の通り星が鏡みたいにうつる綺麗な湖なんだけど、そこで変な魔女に会ったんだ……」
「もう、フレイったら。そんなに慌てなくてもお茶の時間は逃げないのに」
「やれやれ、ふふっ……」
「あ、そうだ」
へカティアは足を止めて振り返る。
「おかえり、フレイ」
「おっと、忘れていたな。おかえり」
「あぁ、ただいま!へカティア、シリウス!」
そんな賑やかな会話と共に、3人は黒い館の玄関を開けてその中へと姿を消した。
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鬱蒼とした北の国の「沈黙の森」。
かつて死の魔女が住まうと恐れられていたその森には3人の心優しい魔女が住むという。
叡智の魔女・へカティアが多くの記録と研究を残したという黒い館は、やがて子供たちに多くの知恵をさずける学問所となったのだが……それはまた別のお話。
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名君と言えど、英雄と言えど、
命とは有限なるもの。
それを歪ませんとすれば
その魂はやがて狂気へと堕ちる。
しかし、受け継がれし思いと知恵は
永い時を生きることになるだろう。
それこそが永遠の命とは言えまいか──
旅人さん、君はどう思ったかな?
では、これにてこのお話はおしまいとしよう。
第3章 死の魔女と不老不死の秘薬 ─END─
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💀ヘカティア・ヌーメニア(cv.唄見つきの)
🪆フレイ・テレシアス(cv.うにの子)
🌌シリウス・スクローイ(cv.琉伊)
🌠ポラリス・スクローイ(cv.琉伊)
🐍アダラ・バートリ(cv.RAKKO)
🏛マリオン・ヴィリエ(cv.はいねこ)
🖼イライザ(cv.小花衣 栞)
🌌🌠🐍someday look back on a young day
(いつの日か 私達は幼い頃を振り返る)
💀🪆we shared we leaned
(分かち合い ともに学んだ時代を)
🏛🖼we had we lost
(手にしたもの なくしたものを)
💀🪆🌌because you know
(なぜなら 君は知っているでしょう)
tomorrow had another plan
(明日が来れば また新たな目的が生まれると)
🐍🏛🖼because we lose
(なぜなら 私たちは見失ってしまったね)
the future is all we have left
(未来だけが残されたすべてなんだと)
🏛one pain 🖼one hope
(ひとつの痛み ひとつの希望)
🐍too far 🌠so close
(それはとても遠く とても近い)
🪆we laugh 🌌we cry
(僕らは笑い合い 涙して)
💀we live we grow
(私たちは生きて 成長していく)
All:because... because... we know
(なぜなら……なぜなら、私たちは知っている)
the future is all we have left
(未来だけが残されたすべてなんだ)
All:Ah……
🪆we have someday
(いつの日か)
All:Ah……
🌌surely someday
(きっといつの日か)
All:Ah……
💀surely someday
(きっといつの日か)
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☾第3章 プレイリスト☽
①https://nana-music.com/playlists/4044295
②https://nana-music.com/playlists/4079444
☾ 素敵な伴奏ありがとうございました☽
jaco jaco様
https://nana-music.com/sounds/009571f7
☾ 𝕋𝕒𝕘 ☽
#魔女ヘカティア #魔女フレイ #魔女シリウス #ポラリス_Harmosphere #魔女アダラ #魔女マリオン #イライザ_Harmosphere
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