絶対零度
✝️チノ(cv.???)/月詠み ユリイ・カノン
絶対零度
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10番目の私〜人格統合経過報告〜『5.絶対零度』
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✝️4番目-チノ
✕印は、とうとう私の部屋の隣にまで侵食した。言い逃れは出来ない明らかな法則性が見え始め、皆が消滅の順番を察しだした。周囲の視線が哀れみのソレに変わっていくことに気づいた私は、唇を噛みしめて表の世界へと逃げ出した。
身体を手にした表の世界では、精神世界とは違い手当り次第モノにあたることが出来る。私は、他の人格達がやらないような乱暴な身の振りで部屋中の全てを蹴り飛ばした。ボロボロになった部屋の中、私が肩で息をしていると、蒼井先生がやってきて小さな声を上げた。
「……チノ?」
「正解。こんな暴君は私だけなんだから、簡単でしょ、先生」
肩を竦めて笑ってみせると、先生は哀愁漂う表情の中、口角だけを少しあげて首を傾げた。
「あなたは優しい子でしょ。白石さんの中に、暴君なんていないよ」
「……んなわけあるか」
先生の口をついて出たのは在り来りな言葉だった。他の人格ならば喜んで飛びつきそうな謳い文句だ。だけど私は騙されない。私が優しいなんて、そんなことあるはずがないからだ。
私がそっぽを向いたまま動かないでいると、先生がゆっくりと遠ざかっていく音がした。やがて、足音が完璧に聞こえなくなってしまうと、私は浅く息を吸ってポケットから新品のカッターナイフを取りだした。
どうせ次消えるのなら、この身体ごと道連れにしてやろうと決めていた。
こんな理不尽が通用してたまるか。私とて生まれたくてこんな窮屈な場所に来たわけじゃない。本当なら私も、私だけの身体が欲しかった。
「だから、これが1番手っ取り早いんだよ」
鈍く光る切っ先を目にすると、条件反射で手が震えた。けれどもう、引き返したところであの精神世界に私の居場所はないだろう。お迎えはすぐそこまで来ていた。
「だ、いじょうぶ。きっと、私、来世で私──」
呂律が回らなくなっていく舌を懸命に動かして、私はカッターナイフを首筋に当てた。大丈夫。これで皆平等に消える。1人1人居なくなる恐怖からも解放される。
私は目を閉じると、両の手に大きく力を込めた。
その時だった。世界がぐるりと反転して、私は強制的に精神世界へと呼び戻された。
🔗6番目-マオ
『5番目』リィが外への入口に手を伸ばすと、ぐらりと空間が歪んでチノが落ちてきた。チノは、初めは動揺したように辺りを見渡していたが、私たちが傍にいることに気がつくと、唇を噛みしめこちらを睨みつけた。
「邪魔するなッ!」
明らかな敵意を持ったチノは、拳を振り上げ私たちに襲いかかった。だが、それすらもリィにはお見通しのようだ。彼女はチノが腕を下ろすよりも早くその手を掴むと、チノを押さえつけながら私に向かって叫んだ。
「マオ、走れ!こいつに身体の主導権を握る隙を与えるな! 走れ!!」
「……っ!!」
考えるより先に身体が動いていた。精神世界と表の世界とを繋ぐ光の入り口に、思い切って身を投じる。
「あ、ああ、お前まで私の邪魔すんのか!? 裏切り者、裏切り者!!」
「声に耳を貸すな!! 良いから身体を、早く!!」
私はけっして振り返らなかった。光に飲まれる直前には、二人の怒号は混ざりあって、ただのノイズに成り果てていた。そうして精神世界から抜けた私は、己の置かれた状況に安堵する間もなく息を飲み込んだ。
手に持ったナイフの切っ先が、喉元すれすれのところで静止していた。
「本当に、死ぬところだったんだ……」
この身体が自死の手前まで来てしまっていた事を悟った瞬間、全身がぞわりと逆立った。震える手でナイフから手を離し、爆発しそうな心臓を抱え込むように蹲る。
そのまま幾分か経ち、落ち着いてきた私はチノを抑えるため精神世界に残ったリィに語りかけた。
「ねえリィ、そっちは大丈夫だった?」
だが、何度呼びかけても、向こうからは何の返事もない。否、返事どころか、その気配すらも。
「リィ、チノ……?」
嫌な予感がした。
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✝️チノ(cv.???)
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ああ 凍てついた心象に
昏れない何かをくれ
のべつ幕無し 飽いたストラテジー
人も歩けば木から落ちるでしょ
苦肉の策で謀り安堵さ
今に手詰まる さながらイカサマ
良いも悪いも知らぬ間に交って
単調な感情に流されていく
問も答も間違いだろうて
ああ 馬鹿ばっかだ
まさかまだ気付かない?
この絶対零度の心さえ解かす
愛と亦 見紛う 往往
表面上は美しかれ
一寸先は今も暗い暗い
汎用的なセリフは無駄
ちゃちな妄想して溺れる 脳脳
本当の嘘はノンフィクション
作り話の恋が凪ぐ
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サムネイル:ぴざめーかー 様
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#10番目の私
#ユリイカノン #月詠み
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