Mortal With You
⚜️リリス・ティターン
Mortal With You
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第4節「不死の妙薬と死の魔女」
物心ついた頃からリリスは「優れた者」だった。
リリスは生まれつき賢く、そして強い魔力を持つ魔女だった。そして人を思うままに操ることができる固有魔法……リリスは常に周りの人間にかしずかれながら生きてきた。
それは厳しい北の国の大地では恵まれたことだったに違いない。人々に崇められる何不自由のない生活。けれど──それはうんざりするほど退屈な日々だった。
そんなリリスの生活を変えたのは、ある日リリスを訪ねてきた人間の娘だった。
「貴女が魔女リリスなの?」
「あら、随分と生意気な人間ね。何の用で私を訪ねたのですか」
「失礼したわ。私はこの国の女王カーチャ」
その言葉にリリスは目を瞬かせて、辺りを見回したが少したところに数名の騎士が立っているだけだった。とても女王の護衛だとは思えない。
「随分と不用心ですね。勇猛なのか愚かなのか、それともそのどちらもなのか」
「そんな大した事情ではありませんよ。私が女王としてまだ未熟であり、私自身に割くことができる人材がいないだけのことです。東の国との国境で小競り合いが起きてるのはご存知ですか?」
その言葉にリリスは頷いた。
つまり……この目の前の女王は身の回りの騎士すらに国境送ってしまったのか。やはり不用心だとしか思えないが。
「……ここ数年の凶作で多くの民が死にました。もし国境の紛争が早急に鎮められず戦火が国内に広がれば、きっともっと酷いことになる」
「だから腕の立つ騎士を派遣してしまったの?」
「はい、それほどまでに我が国の状況は逼迫しているのです」
そしてカーチャはその場に膝を着く。
後ろに控えていた騎士が「女王陛下!」と慌てた声を上げるが、カーチャは気にせずそのままリリスの顔を見上げた。意思の強そうな輝く瞳。リリスはハッと息を飲む。まるで星の煌めきのようなそれに目を奪われてしまった。
「魔女リリス、貴女の類まれな魔力と知恵の評判は王都まで広がっています。この国の危機をどうか共に救って欲しいのです」
その言葉を聞いてリリスは悟った。
このつまらない日々を打ち砕く、運命の出会い。それこそが彼女なのだと。
☪︎
それからの日々はこれまでリリスが生きた数百年とは比べものにならないほど、苦労と苦難と懊悩に満ちていた。
北の国は環境が厳しく作物が育ちにくい。国をたて直したくても国力が無いのだ。まずは国を豊かにすることから始めなくてはならなかった。
「リリス、麦を改良して寒さに強い品種を民に広めるのはどうかしら?」
「それも一つの手ですが、我が国は南の国などに比べるとどうしても農業に向かない土地なので他の道も探さなくては」
「うぅん……なら、鉱石や宝石はどう?」
「……!素晴らしい案です!我が王!」
カーチャは優秀な王だった。
賢く、行動力があり、慈悲深く、倹約家で常に民のことばかり考えていた。次第にリリスはカーチャのことを心から尊敬するようになった。かつては貧弱で自分に従うばかりだと思っていた人間に、忠誠を感じ自然と頭を垂れるようになった。
「……我が王、この国を1人で治めるのは大変なことでしょう?伴侶を得ることはお考えでは無いのですか?」
「そうね、私の伴侶はこの国だから。跡継ぎも私の妹が優秀な甥を産んでくれているから心配には及ばないわ。それに1人では無いわ。だって私には貴女がいるじゃないの、リリス」
その言葉はリリスの心を満たした。
大勢の人間に敬われていた長い時間で一度も感じたことのない満足感と幸福。それをリリスはカーチャの傍で確かに感じていた。
けれど、人間は儚い生き物だ。
だからそんな幸福は長く続かなかった。
「リリス……色々と苦労をかけるわね」
「我が王、大丈夫ですよ。きっと薬師たちが病を治してくれるはずですから」
「ふふふ、いいのよ。もう寿命ね。私はもうこんなおばあちゃんになってしまった……貴女はいつまでも美しいままなのにね」
「いいえ!貴女は今でも美しいです!この世界で何よりも!その皺も白髪も貴女がこの国を守り続けて来た証ではありませんか……!」
寝台に身を横たえたカーチャはすっかり年老いていたが、リリスには些細なことだった。
ペンだこの出来た皺だらけの手が国の予算を決めるためにいくつもの夜インクだらけになっていたことを知っている。白髪混じりの髪を整える暇も惜しんで国中を駆け回っているを見てきた。
「……ありがとう、リリス。貴女に出会えたことが私の人生において最大の幸福でした。でも一つ心残りがあるなら……貴女のように、私も長い時間を共に歩めたら良かったのに」
カーチャは疲れたように目を閉じる。
「やっと冷害が何年に一度の周期でやってくるか分かったのに、流行病の治療法を見つけることが出来たのに、宝石の流通ルートを確立したのに、ようやく王として一人前になったのに……私はもう王でいられないなんて口惜しいわ……」
そんな言葉を零して寝息を立て始めたカーチャのそばをリリスはそっと離れた。寝室の扉を後ろ手に閉めたリリスの瞳はらんらんと輝いていた。
「ええ!ええ!もちろんです我が王!私が貴女の願いを叶えてみせましょう!」
☪︎
「きっと貴女に必要なのは大切な人と今を生きて……最期まで生き抜く勇気だったんだと思います」
へカティアが告げたその時、けたたましく部屋の扉が開かれ、シリウスと兵士たちが部屋になだれ込んできた。
「へカティア!フレイ!無事か!?」
「シリウス……!」
「無事じゃない!見ろよこの傷!遅いぞ!」
どうやらリリスの洗脳がとけた兵士たちを連れてきてくれたらしい。兵士たちは素早くリリスを拘束する。
「来い!このおぞましい魔女め……!」
「宮廷の人間を全員洗脳するなんてな……」
「女王亡き後に国を乗っ取る気だったのか?」
「違うわ!何故みんな分からないの?我が王は優れた王なのだから、多少の犠牲が出たとしてもそれは意味のある犠牲なのよ!」
リリスは辺りを見回し涙ながらに叫ぶ。しかし悲痛な叫びは誰に届くこともない。むしろその狂気に怯えた目を向けられるだけだ。
しかし、へカティアはリリスの前に歩み寄ると静かな眼差しで問いかけた。
「リリス様、本当に女王陛下は不老不死になることを望んでおられたんですか?」
「ええ、もっと長生きしたいと……!」
「こんなに多くの犠牲を出しても?それを女王陛下は良しとされるでしょうか?」
その問いかけにリリスは言葉を詰まらせる。
もし望んでいないとしたら。でも、それなら、自分は何のためにこんなことを?
『ありがとう、リリス。貴女に出会えたことが私の人生において最大の幸福でした』
カーチャの言葉が頭の中に響く。そんなのこちらが言うべき言葉だ。貴女に会えたから私の世界は喜びに満ち溢れたというのに。
リリスは抵抗を止め、膝から崩れ落ちた。
「あぁ、そう……私は、私が……死なないで欲しかったのね……私を置いていかないでカーチャ……」
ついにリリスの瞳から涙がこぼれ落ちた。
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⚜️リリス・ティターン(cv.赤沢みや)
Does it get easier with time for the immortal?
(不死の者でも時間が経てば楽になるの?)
if I was born normal
(「普通」に生まれたら)
If I become normal, can I stay close?
(「普通」になれたら、側にいられるかしら?)
With the children, we link our arms
(子どもたちと、腕を組んで)
Make a circle and sing a song
(輪になって歌を歌う)
Knowing there was no chair for me all along
(ずっと私の分の椅子は無いって知っているのに)
You locked me into the dark
(私は貴女に暗闇の中に閉じ込められ)
I'm your preserved flower
(私は貴女のプリザーブドフラワー)
The world is too slow to understand
(理解されるのには世界は遅すぎる)
Not all blossoms spark
(全ての蕾は花開くわけじゃないし)
And spikes may be sharp
(棘は鋭いかもしれない)
They want to see just the beautiful parts
(みんな美しいものだけ見たいのね)
Sitting in a shower of scarlet rain
(真っ赤な雨を浴びながら座り込む)
It all used to be ours
(かつて全ては私たちのものだったのに)
I'm counting the hours
(私は時を数えた)
Hours that stood between us like a river
(私たちの間に川のように横たわる時を)
Once I crawled through the water
(水の中を這いずって渡りきった頃には)
All I ever knew have become distant past
(私の知る全ては遠い過去になってしまった……)
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⚜️リリス・ティターン(cv.赤沢みや)
北の国の魔女。300歳はこえているが正確な年齢は本人も覚えていない。
女王陛下の右腕として北の国に長年仕え、王佐殿と呼ばれ尊敬されていた。しかし、敬愛する女王の死を受け入れられず不老不死の秘薬を求めるあまり、宮廷の人々を洗脳し、更に他の魔女に多くの国民を虐殺させるなどの大罪を犯してしまった。
【好き】自分の力を発揮すること、カーチャ
【嫌い】変化のない日々、退屈
【特技】人心掌握
【ステッキ】国から与えられた勲章
【固有魔法】
「よろしくお願いしますね?(マイ·マジェスティ)」
頼み事を承諾した者を思うままに操る魔法
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☾第3章 プレイリスト☽
https://nana-music.com/playlists/4044295
☾ 素敵な伴奏ありがとうございました☽
White Water様
https://nana-music.com/sounds/066f093e
☾ 𝕋𝕒𝕘 ☽
#MortalWithYou #金装のヴェルメイユ #Mili
#魔女リリス
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