レムの魔法
ヘレボルス・ニゲル/傘村トータ
レムの魔法
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きみに触れに行けなくてごめんね。
☪︎*。꙳‧✧̣̇‧.+*:゚+。.✩
⚠️このストーリーにはキャラクターの死を示唆する描写、残酷な表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。⚠️
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「う〜ん、これで必要な薬草は揃ったかな?」
その日私は珍しく森の奥深くまで来ていた。
少し肌寒くて、冬の訪れを感じさせる匂いがした。
「ヘルス、今日もまた大量だな」
「ビシン!」
グレーの毛並みとターコイズの瞳を持つビシンという猫は、私が飼っている…というか私の家に住み着いた猫で言葉を喋ることが出来る。
まあ…私が作った魔法薬を被ってしまったから喋れるようになってしまった…と言った方が正しいかもしれない。
「寒いし温かいものが食いたいなぁ」
「そうだねぇ、何かシチューみたいなものを……」
『ヘルスさん!ヘルスさん!』
「ん?どうしたの?」
さらに奥深くの方向から、数羽の小鳥たちが慌ただしく羽をパタパタとさせてやってきた。
『怪我している子がいるんです!来てください!』
「それは大変…!」
ビシンと共にヘルスは森の奥へ足を踏み入れる。
崖の下に、ぐったりとした様子の悪魔の羽が生えた妖精が倒れていた。
「これ結構重症じゃないか…?」
「ねえ、大丈夫?しっかりして……!」
『さっき見つけたばかりだから、まだ助かると思うんです!』
『ヘルスさん助けてあげて!』
『必要な薬草があったら持ってくるからね!』
森の動物たちが心配そうに集まってくる。
「怪我は酷いけど呼吸は安定してるし、命に別状は無いと思う……ひとまず連れて帰ってみるね、ありがとうみんな。」
これが、私とナルの出会いだった。
「あ、目が覚めたみたいだね」
「……ニンゲン!?」
「も〜違うよぉ!私はこれでも立派な魔女。あなた、崖から落ちて大変なことになってたんだからね?」
落ち着かない様子の妖精に、暖かいミルクを渡しながらヘルスはにこやかに笑う。
「私はヘレボルス・ニゲル。魔法薬や治癒が得意な魔女だよ。だからあまり魔女っぽくないのかも。あ、私のことは“ヘルス”って呼んでね」
「……動物ガたくさン……」
「ここで動物と人間のお医者さんをしてるの。」
「ニンゲンの……?」
妖精は、目をぱちぱちとさせて信じられないという顔をした。
悪魔のような羽……おそらくこの子は闇の守護を持つ魔族だろう。
魔女と人間が助け合うなんてにわかに信じ難い話だ。
だけど魔族なのに黄金の瞳……?随分珍しい……。
(そもそも、人間と魔女はなかなか交わることがない……私は人間界にしかない植物を研究したくてこの村に来たけど、最初は魔女なんて信じて貰えなかったし、今よりもっと偏見の目も多かった。)
だけど、人間は優しい。
たとえ私が異質な存在でも、受け入れてくれる。
みんなと違っても、私の居場所はここにある。
「あなたの名前は?」
「……無能ナワタシにナマエなんテない」
「う〜ん……じゃあ……」
ヘルスは辺りを見回すと、窓際に飾られている水仙の花を指さして微笑む。
「ナルシサス、なんてどうかな?長いから普段は“ナル”!」
「ワタシの、名前……」
「あなたの瞳と同じ色のお花だよ。きらきらしてて綺麗だよね!」
ナルの瞳に暖かな光が宿ったように見えた。
魔族の中で黄金の瞳というのは不吉だと聞いた事がある。金色は神秘な色で、魔族にはふさわしくないからとかくだらない理由だった。
見た目がどうとか、そんなことで避難するのは理不尽すぎる。
(でもこれは、どんな種族にもある偏見なのよね……“みんなと違うものは否定される”……結局生きにくい世界だな、どこも)
みんながみんな優しいわけじゃない。
ここに来てだいぶ年月が経っているけれど、みんなが私のことを受け入れてくれているとは思っていない。
私は人間からしたらただの子供過ぎない見た目をしている。
そんな小娘に治療をされるなんて、腑に落ちないと思う人もいるだろう。
(ナルには、どうかこれからは世界は広いってことを知って欲しいな。)
ナルはとても優秀で、人の姿になる魔法を習得するのに一週間もかからなかった。
それからも薬草についてや魔法薬についてなどの知識もあっという間に身につけて行った。
「ナルは本当に飲み込みが早いね!」
「そう、でしょうか……」
「も〜…私達は契約関係にないんだから、敬語なんて使わないでって何回も言ってるのに!」
「患者さんたちに使っているうちに癖がついてしまったみたいです…」
「いいけど、出会った頃みたいにもうちょっと生意気でもいいんだよ?」
ナルはなんだかんだいつも謙虚だった。
彼女が私の宝石を割ってしまった時も、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
「形があるものは壊れてしまうの。だからこそ…大切に扱わないと。」
「ごめんなさイ…」
「大丈夫よ、あなたに怪我がないのなら。」
そう言いヘルスは私の頭を優しく撫でて微笑む。
「壊れてしまっても直すことはできるの。例え元の形に戻らなくても…ほら」
小さくなった宝石を、ヘルスは指輪にはめる。
「これはこれでいいと思わない?」
彼女を“魔族”と呼ぶには、少し違和感を覚えた。
もしかしたら彼女には、何か秘密が隠されているのかもしれない。
(それを、どうにか調べようとしていたんだけどな)
あの時村人に腹部を刺された私は、確実に死んだはずだった。
でも気がついた時にはこの聖堂にいて、そばにビシンが蹲っていた。
「ヘルス、久しぶりの再会がこんな形になってしまったこと残念に思っているわ」
「女王…さま……?わたしは、一体……?」
「あなたの身体はとても深い傷を負っているから、今治療中なの。でも大丈夫……何があっても私たちはあなたを死なせないわ。」
ぼんやりとする意識の中で女王の声が響く。
「光の守護を持つこんなにも優秀な魔女は、あなた以外にはいないの。」
「女王様に……そんな風に仰って頂けてとても光栄です……」
「こんな時まで笑わなくていいのに……あなたって人は……」
女王様はとても悲しそうな顔をしている。
笑って欲しいな、私は大丈夫だから。
大丈夫……だから……。
「ヘルス、あなたの身体を治療するには長い時間がかかります。あなたは魔女ですから人間と比べたらとても短いです。ただ……その間魂を別の場所に移さないと、あなたという人格をなくしてしまう可能性があります……」
「人格……ってことは、私としての記憶とかそういうのが無くなるってことですか?」
「簡単に言えばそういうことになります……ですが……別の場所に移してしまうと、その間もあなたの記憶はなくなります。」
「女王様がそうしてまでも私を生かすのには、きっとなにか理由があるんですよね。わかりました。」
「……必ずあなたを救います。そして、彼女とまた会えるように……」
ああ、ナルはどうしてるかな。
大丈夫かな、私がいなくて。
村の人たちは?動物たちは?
私がいなくても、大丈夫かな……。
ナルに短剣を向けた人間の顔がふと頭をよぎる。
……案外、私はいない方がいいのかもしれない。
その方が人間は……うれしいのかもしれない……。
それから私の魂は“ロゼ”という光魔法の妖精の器の中へ保管された。
私がこうして残っているのは、どういう原理なのか分からないけれど…。
実態を持たない私は、幽霊みたいなものだ。
ロゼの身体に負担がかからないように動くと、ここを離れるのは短時間しか出来ないようだけどあの子たちを導くことくらいは出来るだろう。
「信じてるからね、美桜ちゃん……」
____________
誰の背中だろう、自分より大きいのになんだかとても小さく見える。
悲しそう、寂しそう……もしかして泣いてる?
『ねえ、どうしたの?』
声に出すけど、声が届かない。
手を伸ばすと、その人物との間に透明な壁のようなものがあることに気づいた。
『なに、これ……触れられない……』
こんなに近くにいるのに、すごく遠くにいるみたいだ。
「……ヘルスがそばに居てくれているみたい」
その声に、名前に、記憶のピースがひとつひとつ集まっていく。
『ヘルス……?』
今ここで、泣いているこの子は、間違いなくシャルメアのナルシサスだ。
中立と言えど彼女は私たちの敵。
悲嘆の芽を世の中に広めようとしてる。
ウィチェリーの邪魔をする存在。
なのに、どうしてこんなに
『涙が止まらないの……?』
頬を伝う涙は、水に溶けた絵の具のようにじんわりとエプロンに拡がっていく。
『……いるよ、ずっと…そばに……』
なんでこんな大切なことを忘れてしまっていたんだろう。
ナルシサスは……ナルは……私の敵じゃない。
『ああ、そうか私は……ヘレボルス・ニゲルだ……』
「……私は、いずれカトレアたちを止めなくちゃ行けないと思うんです。彼女達のため、そしてこの世界の人間たちを守るために。傲慢な考えですよね、ヘルス……」
一緒にいるから、それだけで同じだと決めつけてナル自身の考えなんて勝手に否定していた。
聞いた事だけを鵜呑みにし、自分の目で確かめようともしなかった。
私はあの時の…人間たちと同じだ。
ごめんね、ナル、独りにしてごめんね。
あなたのことをずっと分からなくて、こんな大切なことを忘れていて、ごめんね。
『ナル……』
もういちどあなたに触れたい
もういちどあなたに___。
「ヘルス……さみしいです……」
『絶対また会いに行くって約束するから!だから、だから……!待ってて、ナル……』
____________
「初めて会ったこの場所なら……もういちど私を見つけてくれませんか、ヘルス____」
「ヘルスじゃなくてごめんな。」
「ビシン……あなた、どこに行っていたんですか……!?」
「フェーリロワイヤル王国だ。お前に大事なことを伝えに来た。」
懐かしい眼差しに、少しだけ緊張が解けて、体の力が抜ける。
「大事なことってなんですか……?」
「ヘルスが死んでいないということだ」
「……はい?」
「ヘルスは女王の力により保護されている。身体は深い傷を負ってしまったから、魔法治療を受けているが、特殊な事情で魂を別の器に移しているんだ。」
「ヴィオラたちと同じですね……」
「そうなるな。」
「……器というのは、“ロゼ”の事ですね?」
「……ああ」
ヘレボルス・ニゲル……クリスマスローズと呼ばれる花の学名だけど、それには“死の食べ物”という意味も持つ。だから彼女は“ヘルス”と呼ぶことを望んでいた。それを知ったのも本当に最近だったけど。
「それと、お前についてのことも分かったことがある。」
「私、ですか……?」
「お前は、闇魔法と光魔法どちらも受け継いでいる特殊な存在だ____」
☪︎*。꙳‧✧̣̇‧.+*:゚+。.✩
𝐿𝑦𝑟𝑖𝑐
いつもそばに居れなくてごめんね
寂しい思い、させてごめんね
ひとつきりの体だけれど
きみに触れに行けなくてごめんね
心を千切ってでも きみを守りたいのに
千切ってみたところで なんにもならないんだ
きみのせいじゃないんだよ きみは悪くないんだよ
ひとりで頑張らせた 強くないのに
レムの魔法を掛けてあげるよ
きみが不安でたまらないとき
僕は夢へ逢いに行って
きみが欲しい言葉をあげるよ
一番欲しい言葉をあげるよ
☪︎*。꙳‧✧̣̇‧.+*:゚+。.✩
ー𝐶𝑎𝑠𝑡ー
💐ヘレボルス・ニゲル(cv.おとの。)
𝑺𝒑𝒆𝒄𝒊𝒂𝒍𝑻𝒉𝒂𝒏𝒌𝒔__
素敵な伴奏はこちら𓆸⋆*
https://nana-music.com/sounds/060a1eb6
ありがとうございました𑁍𓏸𓈒
𝒊𝒍𝒍𝒖𝒔𝒕𝒓𝒂𝒕𝒊𝒐𝒏:羽月璃蕾、つきしろ やよい
本サウンドを聞いて下さり、ここまで目を通して下さり誠にありがとうございます。
本企画「12時過ぎの魔法使い」及び「シャルモントナイトメア」へのギフト機能の使用は禁止とさせていただきます。
ご理解の程よろしくお願い致します。
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