#星詠みの詩
【任務 ガニメデ組】
今回は「悲劇の泉」での水質調査だと言われて、僕たちは人間界にある大きな湖にやってきた。
でこぼこ道が多かったから、車いすは折りたたんでししょーが運んでくれた。
あっ、ししょーって言うのはね、アクエリアスのこと!
ガニメデの背中で揺られながらどこまでも澄んだ青空を見上げる。
うん、今日もとってもいい日になりそう。
「さて、ついたよ。ここが悲劇の泉さ」
ししょーが車いすをセットして、僕はガニメデの背中からうつる。どうせなら、もうちょっとだけ甘えていたかったなぁ。
「……いつ見てもすごい景色だな」
目の前には大きな湖があった。車輪を少し動かして近づいてみると、青い空をうつした水の中に、さみしい色をした建物がいくつも沈んでいるのが見える。
「ねぇ、ししょー。あの大きな人の形をしたものはなぁに?」
「あれは昔、ここらではとても有名な美術館だったんだ。その記念像だよ。大雨の災害で湖の底に沈んだ今でも美しい……芸術とはいつ如何なる時でも、どのような姿でも、素晴らしいものだ」
そう言って、ししょーは湖の水を小さな瓶にすくい上げる。
それから、慣れた手つきで試験紙をつけて、水の状態を調べた。
「やはり何の異常も見当たらないね」
うむ、と頷いたあとししょーは少し遠い水面を指さした。
「……助手くん、ご覧。あそこに魚がいるよ。かつて人が生活を営んでいた場所が今や小さき命を育む場所になっているんだ。この場所は最高に美しくて素晴らしい。そうは思わないかい?」
「うん!おさかなさんたち、すごくきれい!」
「美しいものは人々に幸福を与えてくれる。僕は今最高の気分だよ」
嬉しそうなししょーを見て、僕もうれしいなと思った。
けどその横で、ガニメデは難しい顔をして湖をじーっと眺めてた。
「ガニメデは、ここがきらい?」
「……さぁ、どうだろうな。ここには逃げ遅れて、都市とともに沈んでしまった人たちがいる。それだけじゃねえ。ここにいる魚だって、本当に自由に暮らせているんだろうか。陸の世界を知ることができない。しかもこいつらは、川にも海にも繋がっていないここでしか生きられないんだ。……なぁ、ピスケス、お前はこの魚たちをどう思う?」
なーんか難しい話。僕たちは沈んで水草だらけになった街と、きらきら光る魚たちを眺めながら、しばらくそうやって語り合っていた。
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