波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。
ネガティブマジカルガールズ
波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。
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最終話「ネガティブマジカルガールズ」
真っ暗な世界の中でその少女は漂っていた。
上も下も分からない本物の暗闇。
どこからが暗闇で、どこまでが自分なのか……
どんどん「自分」が闇に消えていく。
こうしてまた消えていくのか。
誰にも知られず。誰にも悼まれず。
けれど次の瞬間。
「皆に届いてっ……!!!!」
一瞬の閃光と共に、何かが手首に絡まった。
温かい何かが少女に──少女たちに繋がった。
だから少女たちはまぶたをそっと開いた。
×××××
「みんな……!良かった……」
まだ暴風の荒れ狂い瓦礫と化した羽間市。そんな殺伐とした風景の中でも、暗闇から引っ張り出した仲間たちが無事に目を覚ましたのを確認したきらりは、安堵から目を潤ませた。
「桃園さん……と貴女が私たちを助けてくれたの?」
「ひびきだ。黒川ひびき。リトルリトルがオレの体を捨ててくれたおかげでここに居る」
「あぁ……私たちが吸い込まれる前に確かに貴女の体からリトルリトルが出ていくのを見たわ……」
あさひの問いかけにひびきが答え、事情を理解した少女たちはやっと我に返ったように辺りを見回した。
「うわ、町中超めちゃくちゃじゃん……」
「そうだね……ううん、それよりほのかは!?」
慌ててうららが立ち上がる。だが、ほのかは思いの外すぐに見つかった。他の5人から少し離れたところでぼんやりとした顔で座り込んでいる。
「桃園さん……な、なんで……なんで、私まで……助けたんですか……?」
「だって、ほのかちゃんも仲間だもん。助けないなんてありえないよ……」
「な、仲間、だなんて、だって、私……わ、私こんなことしたのに……!」
ほのかは瓦礫の中で手を広げる。目の前に広がる風景にほのかはまた涙をあふれさせる。
「わ、私は……!こんな酷いことしたんですよ……!」
「……翠川さんの気持ちはよく分かるわ」
「あーたんの言う通りだよ。アイもアイたちがもう死体なんだって知って超ヘコんだもん。もしほのぴがやらなかったらアイがやってたかも……」
「そ、そんなこと!そんなことないです!だって皆はとっても優しい人だから……!わ、私の心が汚いだけなんです……やっぱり私はできそこないで……」
ほのかがとっさに反論しようとしたその時、鋭い音が辺りに響き渡った。
「ほのかができそこないなわけない!ほのかはいつも皆のこと心配して気遣ってくれたじゃん!」
「あ、浅黄さん……?」
「ほのかのことを悪く言うのは、ほのか本人でも許さないんだから……!」
ほのかが震える手で赤くなった頬に触る。遅れてやってきた痛みと、目の前で涙を流しながら怒るうららの顔を見てやっと自分が叩かれたと理解した。
「浅黄さんが……怒るところ、初めて見ました」
「私も人前で初めて怒ったよ!でも、すっごく腹が立つの!友達を悪く言われたら……!」
そしてうららは泣きながらほのかを抱きしめた。
「ほのかが私たちの中で1番傷つきやすいって知ってたのに……気付かなくてごめんね」
「そんなの、浅黄さんが謝る必要は無いです……」
ほのかはそう言って、うららの背中にすがりつくように抱き締め返した。黒く染ったドレスが少しずつ元の鮮やかなグリーンに戻っていく。
そうして辺りを荒れ狂う風の音と、2人のすすり泣く声だけが満たしていく。他の4人はただ静かにそれを見守ったのだった。
×××××
「あれ、オマエらあそこから出てきたの?」
「!!!」
そんな静謐な時間を無粋に切り裂いたのは、聞き覚えのある感情のない声だった。咄嗟にひびきが魔法で銃を取り出して背後に向ける。
「止めておいた方が良いよ。その銃が火を噴く前にまたオマエは死体に戻ってるから」
「……チッ」
ひびきは悔しそうに顔を歪めて、銃を下ろす。
「まぁ、いま死体に戻ったとしても少し早いか遅いかってだけの話だよ。きらりのお陰であそこから出てこれたみたいだけど……ほら、出てきたよ」
「な、に……何なの、あれ……」
「『復讐のネームレス』だ。ほのかの負の感情を元にどんどん成長してあそこまで大きくなった」
リトルリトルが見上げた空が鏡のように割れ、そこからまず冗談のように巨大な6つの瞳がこれから蹂躙する地上を見下ろした。そして次はいくつもの手が割れ目の縁から現れ、そして枯れた植物のようなものがずるりと姿を現した。それがどうやらそのネームレスの頭部のようだった。
「もうすぐこの世界はアレに壊される」
「壊される……?リトルリトル、私たちの魔力でどうにかならないの?」
「君たち全員の魔力を使えばあの穴を塞げないこともないけど、膨大な魔力がいるからね。オマエらは魔力を使い切って死ぬだろうね」
「そんな……」
「世界と一緒に死ぬか、世界を救って死ぬか」
絶句するきらりにオマエはどっちがいい?とリトルリトルは首を傾げた。
「……アイたち死んじゃうの?」
あいらがぽつりと呟いた。 幼く弱々しい声。一番大人っぽい見た目をしているのに、何だか迷子になった小さな女の子みたいな目であいらは皆を見回した。
リトルリトルなら「もう既に死んでいるのに今更何を言っているんだい」と指摘するだろう。でもきらりには痛いほどわかった。
このまま死にたくない。
ただ誰かに愛されたかった。
ありのままの自分を抱きしめて欲しかった。
自分が生まれた意味を感じたかった。
それを知らぬままにまた自分たちは消えていく。誰に悼まれることもなく。また、意味もなく生まれてきて命を失うのだろうか?
「ねえ……皆、嫌だったら断っていいよ。でも最期に私のワガママを聞いてくれる?」
きらりは胸の前で手を握りしめた。
まるで祈るみたいに。でも祈らない。祈っても叶わないことがあるときらりは──6人は知っている。だからきらりは仲間たちにすがることにした。
「私は……もし死ぬなら世界を救って死にたい」
私たちはこの世界に受け入れられなかった。この世界に居場所は無かった。この世界に愛されなかった。でも私たちの生きた世界はここだった。
だから最期にこの世界にほんの少しだけ、引っかき傷を作っていこう。負の少女たちの最後の悪あがき。私たちは確かにここに生きていたという血の滲んだ最期の絶叫。無様で、みっともなくて、それでも諦めきれない……そんなどうしようもない私たちの願い。
きっと、いつかこの世界のどこかで何かを美しいと誰かが感じたら、それを守ったのは私たちなんだよって胸を張れるから。そうすれば私たちが生まれてきた意味はあったんだと、ここにいた証は残せたんだと、せめてそう思って逝けるから。
だから──魔法少女が世界を救うなんて。
きっとこれはそんな美しい物語なんかじゃない。
「……良いね!流石にくららちゃんでも世界を救うことなんて出来ないもん!最後の最後に私にもこんなことが出来るなんて……えへへ、すごいじゃん!」
「う、うららちゃんが、そういうなら……ううん、これは私の、責任でもあるので……」
「……みんなが一緒ならアイもいいよ」
「大丈夫ですよ、紫京さん。こうやって皆で手を繋いでいれば怖くないでしょう?」
あさひとあいらが手を繋いだのをきっかけに、全員が次々に手を繋いでいく。そして、ひびきが最後にきらりに手を差し出した。
「アンタ一人が責任を感じる必要はないよ。オレはもう2回目に死んだ時にアンタのごめんねって言葉に救われた……だからなんて事ない」
空はひび割れて、街並みは轟音と共に崩れていく。見上げれば真っ暗な6つの瞳が見返してくる。黒と灰色の世界に6人は手を繋ぎ円になる。崩れていく風景の中に光は見えなかった。
でも、隣に大切な仲間のぬくもりがあった。
「あぁ、ほんと嫌になっちゃうなぁ」
きらりは笑った。
全く、負の感情の魔法少女に相応しい最期だ。
×××××
『先日、羽間市で起きた突然の竜巻による被害は甚大で今も6人の行方不明者が──』
「まさか負の感情で世界を救うなんて、ニンゲンの思考回路は本当に難解だ」
先日めちゃくちゃに壊された街は、いま急速に復旧しつつあった。ニュースに流される映像では瓦礫は取り除かれ、崩れたビルは新たに建て直されている。
学校も通常通りに開かれるようになり、子どもたちが笑顔を浮かべながら通学路を走っていく。ありふれた日の風景がそこには広がっていた。
「これがオマエらの守った世界か……ボクもまた代わりの魔法少女を探さないとね」
そして、リトルリトルは小さな体を可愛らしくぴょこぴょこと跳ねさせて暗闇に消えていった──。
これは世界に受け入れられなかった、
これは世界に愛されなかった、
これは世界を憎んだ、
これは世界に生まれた意味を求め続けた、
そして世界を救った少女たちの物語。
これは誰も知らない、「私達」の物語。
─ネガティブマジカルガールズ 完─
××××××××××××
❤️桃園きらり(cv.瑠莉)
💛浅黄うらら(cv.うにの子)
💚翠川ほのか(cv.蓬)
💙藍原あさひ(cv.唄見つきの)
💜紫京あいら(cv.ここあ)
🖤黒川 ひびき(cv.小日向奏乃)
💔=全員
🖤くだらない愛の結果で
💛僕らは生まれ落ちて
💙呼吸さえ強いられているけど
💜綺麗な言葉並べて、
💚醜さに蓋をして
❤️自分を愛せないままだな
💔ずっと。
💙💜くだらない嘘を言う度
青色こぼれ落ちた、
💜ガラスの瞳が綺麗で
💚💛君のその瞼のように
優しいひとになってさ
💚そんな僕を愛したいんだよ
❤️🖤「わたしの呼吸に終わりがあること」
🖤君の声を覚えている
💔生まれては消えていくこと、
それだけを繰り返している
💙💛「僕らがもしまた会えたら」だなんて、
思っていた
💔生まれては消えていくだけの
青白い波に名前をつけることに
❤️意味は無かったのか、なんてさ
××××××××××××
♡伴奏♡キタニタツヤ様
公式piaproより引用
https://piapro.jp/hello_tanitasan
♡イラスト♡蓬様
https://nana-music.com/users/6551018
♡タグ♡
#桃園きらり #浅黄うらら #翠川ほのか #藍原あさひ #紫京あいら #黒川ひびき #ネガマジガールズ
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