過去に囚われている
💙藍原あさひ(cv.唄見つきの)
過去に囚われている
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幕間の鎮魂歌「憂鬱の少女」
その少女は明日が来るのがどうしても嫌だった。
だからこの世界にさよならを告げた。
×××××
幼い頃、あさひは賢い少女だった。
物心ついた頃から大人が自分にどうふるまってほしいかを察することができたし、同年代の子供たちよりも要領良く物事をこなすことができた。
「あさひは本当に良い子ねぇ」
「さすが私達の娘だ。父さんの自慢だよ」
医者である両親の期待に応えられることがあさひの誇りだった。クラスで1番のテスト。ピアノのコンテストで貰ったトロフィー。スポーツ大会の賞状。それらをリビングに飾ってあさひを褒める両親。
幼いあさひの世界は完璧で、完成されていた。だからあさひは両親の言う通りに努力を重ねた。
けれど成長するに従って理解する。
あさひは天才ではなく、凡人でしかない。
「はぁ……どうして3位なんだ?次の塾内テストは頑張ると言っていただろう」
「……ごめんなさい」
「勉強時間はきちんと確保しているのか?きちんと勉強していれば、この程度のテストで満点を逃すことも無いだろう」
父親の叱責にあさひは俯いた。
今回のテストも精一杯頑張ったつもりだ。朝から晩まで机にかじりついて、クラスメイトが遊んでいる間も参考書に向かっていた。
けれどあさひが成長して、世界が広がるにつれて分かってきたことがある。世の中にはどんなに頑張っても越えられない才能を持つ人がいるのだ。3位というのがあさひの実力で、才能の天井なのだろう。
「そもそも、高校受験に失敗しなければこんな塾に通う必要も……」
「あなた、もうそれくらいに……」
「お母さん」
延々と続く説教を母親が止めたので、あさひはやっと俯いていた顔を上げた。しかし、母親はあさひに優しく微笑みかけるとこう告げた。
「大丈夫、次は絶対1位を取れるわ。あさひはやれば出来る子だもの」
「……うん」
「やっぱりあさひは良い子ね。さぁ、そうと決まれば勉強をし直さないと!塾の自習室に行ってきたら?」
「……うん」
母親に促されるままに勉強道具を鞄に詰め込んで家を出ると、塾へ向かう道を夕暮れの中とぼとぼ歩く。
途中で同じ高校生らしき少女たちが楽しそうな笑い声をあげながらあさひとすれ違う。きっと放課後に友だちと寄り道をして帰るのだろう。あさひは真っ直ぐに家に帰って、親に叱られて、これからみじめに塾に向かうというのに。
(私の人生って何なのかしら……)
ただでさえ重かった足取りが止まったのは川にかかった橋の上だった。ここを渡ればすぐ塾だが、あさひは橋の欄干に寄りかかった。灰色の川面に映っていたのは冴えない自分の顔だ。
(昔の私はこんな風じゃなかった。お父さんとお母さんの期待にもいつも応えられてたのに、今の私は失望させてばかりた)
でも才能のない凡人のあさひはきっと両親の期待に応えられない。失望され続ける人生だ。これから先ずっとずっと自分の無能さに打ちのめされるのだろう。
「あぁ、そうか……きっと私の生きる理由はとっくの昔に終わってたんだ」
あさひの人生は幼い頃がピークだったのだ。後にあるのは意味の無い人生。
そう気付いたあさひは衝動的に欄干から身を乗り出した。水面に叩きつけられるのと同時に、冴えない自分の顔が水飛沫になって散っていく。
これでいいんだ、やっと終われる。冷たい水の中であどけなく眠る子どものようにあさひは目を閉じた。
×××××
「あさひー!こっちこっち!」
指定されたファストフード店に到着すると、うららが大きく手を振っているのが目に入った。近付いてみるとどうやらあさひ以外は既に集まっていたらしい。
「ごめんなさい。待たせたかしら」
「ううん!大丈夫だよ!」
「そ、そういえば、じ、塾は、大丈夫ですか……?」
「サボったわ」
簡潔にそう告げると4人は目を丸くする。その反応が無性におかしくなってあさひは微笑んだ。
「……死んだあとも馬鹿正直に親の言うことを聞いてるなんて何だかおかしいって気付いただけよ」
「あはは!確かにそーだね!」
あさひの言葉にあいらが笑い声を上げた。
「せっかく1度死んだんだし……ってゆーのも何か変な言い方だけどさ?これからは人生のやり直しみたいな感じで、自分の好きに生きていけばいいよね」
そう笑うあいらの目もどこかすっきりしている。彼女が少し前からSNSも配信も止めていることをあさひは知っていた。きっと今の自分も彼女と同じような目をしているのだろう。
(自分でしたい事を決めるのって……こんなに心地良いものなのね)
あさひは笑みを深めると、彼女たちとの作戦会議のためにレジへ注文へ向かったのだった。
××××××××××××
💙藍原あさひ(cv.唄見つきの)
今 私は息を吸っている
今 普通の生活送って
今 私は上を向いている
今 飛行機が飛んでるわ
今 あの雲を追いかけたくて
今 走ろうにも動かなくて
今 立ち止まって何になるんだ
だって「今」は空っぽだから
空っぽだから
雨が降った後の香り
何か思い出しそうで
それは時間の浪費って
何で分からないかね
今にしか居られなくて
当然、前だけが拓けて
其処に沿って進めばいい
そう思うことにしたけど
黒 黒 黒 黒 黒だ
黒 黒が襲って
あの時は
遠いあの時は良かったなぁ
過去に囚われている
人生 人生 人生とか
疾うの昔に完成してんだよ
振り返ることでしか証明しようが無いよ
君も地位も全て失った今だ
××××××××××××
♡伴奏♡White Youzy様
https://nana-music.com/sounds/05b1fc9f
♡タグ♡
#WhiteYouzy伴奏
#藍原あさひ #ネガマジガールズ
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