作品番号 No.1
第1回 nanaSS書きさんソムリエ企画
作品番号 No.1
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第1回 nanaSS書きさんソムリエ企画
作品番号 No.1
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悪夢を見た。
あの夏。
双子の姉妹は、確かに夏を二人占めしていた。
不可思議と多幸感にこんがらがった感情で胸をいっぱいにして──二人だけの、特別な夏を過ごした。
そんな、いつまでも宝箱にしまっておきたいような日々に──罅が入って、ばらばらになる。
そんな、夢を見た。
もう逢えないのに、それを受け入れて──大好きとさようならと共に、満足そうに笑って消える妹。
姉は、妹が大好きだ。
だから、そんな未来だけは、どうしても避けたかった。
姉は、一人が、怖かった。
「……ん……もう起きたの?」
隣で閉ざされていた同じ形状の瞼が、ゆっくりと持ち上がる。
姉は未だに動けずにいたが、それはいつものことなので、妹は特に気にした様子もなく起き上がり、慣れた手つきでカーテンを開いて、夏の気配のする外景を剥き出しにした。
「わ〜! いい天気〜! もう梅雨も終わりかな? ねぇ──」
期待色の空模様に目を輝かせた妹が、姉を呼ぼうとして──その唇が、姉の名の形をすることはなかった。
「──どうしたの?」
代わりに紡がれたのは、問い。
さっきまで燦々と煌めいていた瞳を不安げに曇らせた妹が、姉のほうへ戻ってくる。
いつもは姉妹で対になるようにサイドテールにしている髪はまだ下ろされていて、なんだか別人みたいでそれがまた姉の心に墨汁を垂らしたような気もするし、新鮮で可愛いなと呑気なことを思う余裕を生んでくれたような気もした。
「……ゆ……夢を、見たの。一人になっちゃう夢……」
朝一番の声は少し低くて、それがまた気分を下げる──逆か? 気分が下がっているから、自然と声も低くなっているのか?
ともあれ、妹は、その弱った低音に、曇らせていた目を瞠って──すぐに、やさしく微笑んだ。
「そうだね。そういう未来も、あったかもね」
「わ、笑い事じゃないよ……! こっちにとっては、世界よりも大事なことなんだから……!」
「ご、ごめんね? そんなつもりじゃなくて……ほらっ!」
突然、掛け布団のはじっこを握りしめていた姉の片手を、妹の両手が包みこむ。
「私は、此処にいるよっ? だから、大丈夫。色々あったし、これからもそうかもしれないけど……私たちなら、あの日みたいに笑い飛ばせちゃうよ!」
……そんなふうに、思えたら。
妹のように、笑えたら──どれほど、よかっただろう。
それができなくて、怖くて、怖くて、頭の中がぐちゃぐちゃだから、あんな夢を見てしまったというのに。
「それに、ほら! もし離れ離れになっちゃっても、一緒に過ごした意味がなくなっちゃうわけじゃないでしょ? 写真だって、いっぱい撮ったじゃん! それに何より、私が絶対会いに行く! だから……笑ってほしいな、なんて」
そんなふうに、思わず目を細めるほど眩しい文言を語って、困ったように笑う妹。
その光に簡単に照らされきるほど、姉の鬱屈は単純ではない。もっと複雑で、絡まって、ごちゃごちゃで、めんどくさい。
けれど。
「……もう、夏になっちゃうね。嫌だなぁ」
「えぇ? 今年も楽しいことたくさんしようよー!」
「むりだよ……今年こそ、クーラーの効いた部屋でインターネットをして過ごすからね」
外ほどの快晴とは言えずとも、いつもの愚痴を零せる程度には、姉の心も晴れたのだった。
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