ep5 《弟の心、兄知らず》
華後閑研究所 BGM:HomeMadeGarbage SoundTracks様
ep5 《弟の心、兄知らず》
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数日前、休憩返上で倉庫室に呼び出された。
新しい駒が例のコースに入ったと、牛ヶ瀬から聞かされた。
秘書ってなんだよ…こんな事もするのか…と麗夜は、研究所に向かう道中、愚痴を吐く。
お使いだなんて、ガキじゃあるまいし。
牛ヶ瀬さんから、久しぶりに自分の兄に会ってこい。って言われた。
承知しました…と二つ返事をし、部屋を出る時にややあと言葉を投げられた。
「次いでに、アイツ…鳥肥所長の様子も見てこい」
だなんて扱き使わ……お使いを頼まれた。
何年ぶりかの研究所にたどり着いた。
ぼくを追いやった研究所。
そうだよな、ぼくは攻撃型で…実の兄を怪我させた…
スパイって言われてるけど、体のいいお払い箱だ…そう考えると、足取りが重くなった気がした。
数年前に見送られた正面玄関……ではなく、裏口の扉に立つ。
どうやら中に子供たちがいるらしい。
きゃらきゃらと笑い声がした。
ぼくも……ぼくも、こんなfleurさえなければ…、兄さんを傷つけなければあそこに居られた。
そう思うと、途端に頭に血が上る様な錯覚に陥る。
ドアノブを捻る間もなく、足で蹴破り室内に入る。ここから先は朧気だった。
ただ、子供たちを庇おうとした、兄さんが…どこか悲しそうな顔をしていた……と思う。
そう思うだけで、本当は怒っていたのかも知れない。
ぼくは、同じ立場で居たかった…
もし、神様がいるなら、何故ぼくにfleurを与えたのか聞きたい。
……fleurだとしても、なぜ攻撃型なのか…と。
「兄さん…」そう呟けば、麗夜!止めなさい!と声がした。
横から聞こえたから、あー…うん、所長だな…
そうだ、所長の様子も見てこいって、ボスに言われてるんだった。
うん、元気そう。
帰庁したら報告書書かないと…元気でしたー!って書いとけば、問題ないよな。
あはは!
兄さんも所長さんも、巡さんも驚いてる。
そうだよね、本来のぼくの年齢ならfleurは既に使えないのに、使えてるんだもの。
自分の事なのに、どこか他人事のように笑いながら、手を、目の前にいる兄さん…と子供2人に掲げる。
「昔みたいに兄さんを傷つける…弟でごめん」なんて、周りが騒いでるのをいい事に呟く。
どうせ、こんな喧騒だ、聞こえやしない。
「…アネモネ……《見棄てる》」
続け様に発せば、紫色の華陣が現れる。
兄さんは目の前の子供たちを庇う様に、覆い被さる。
ああ…兄さんは変わらないんだ。
昔、ぼくを暴走したfleurから守るために庇ったのと変わらず。
思えば、ただの妬みなのかもしれない。
思考というものは簡単に止まってくれない。
だから、兄さんが涙したのか、ぼくが泣いたのか分からない…
ただ分かるのは、標的を狙っていた筈の華陣がボヤけて、ブレたこと。
兄さんは勿論、所長や巡さんにも恩はある…あるけど、ここはもう、ぼくが居ていい場所じゃない。
ならば、全て…壊してしまえばいい。
もう一度、fleurを出すために、手に力を込めた。
ep5《弟の心、兄知らず》𝑒𝑛𝑑
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◇鶉石 麗夜(うずらいし れいや) ♂
元華後閑研究所の職員で、fleur経験者。
とうの昔に成人を迎えているが、fleurが使える不思議な人。
今は政府の秘書をしている。
兄である大暉は憧れだった。
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#華後閑伝異能譚
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