夜に駆ける
Sooty House - Girl in the mirror -
夜に駆ける
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【 二人今、夜に駆け出していく 】
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ラヴィ、アンジュ──ベラ様、マヤ様。
エリーに向けられた四つの背中が、遠く、遠く、遠く、遠くなっていき──ついには、見えなくなって。
残されたのは、アリス様と、エリーと、エリザベスだけになりました。
「……こわい?」
そんなふうに降ってきたエリザベスの声は、とってもやさしい響きをしていて──締めつけられていた胸が、少しだけほぐされたような気がします。
きっと、エリー達にだけでなく、自分自身にも問いかけているのでしょう──怖いのはエリー達だけではないのだと、感情を共有してくださったのでしょう。
「エリーは……アリス様と離れてしまうのも、アリス様がいなくなってしまうのも、せっかく出会えたみんなとお別れするのも……寂しいです。寂しくてしかたないです。けど──これが、エリーのしたいことですから。叶えたいことですから」
ぐしぐしと涙を拭い、まっすぐとエリザベスの目を見上げます。見据えます。
心のままを写した言葉でした。
嘘偽りない、エリーの本心。
「アリスは平気よ──もともと、そういう運命だったんだもの。けど、その運命に行き着くまでの道のりを選んだのは、間違いなく、アリス自身だから。エリーと出会って、名づけて、笑って、たくさんの人と触れ合って、悩んで、考えて、答えを出して、助けてもらって、たくさんの愛をもらって……とっても幸せだった。これから、エリーが幸せになってくれるなら……何にも後悔はないわ。短い時間だったけれど……アリスは、アリスでいられてよかった」
アリス様の言葉もまた、心のままを写した本心でした。本音でした。ほんとうの想いでした。
エリーには、それがわかります。
だってエリーは、アリス様の鏡ですからね!
「……貴方たちは、強いわね。……ありがとう」
エリザベスは、そう言いながら微笑み──そしてすぐに、真剣な顔をつくります。
「さぁ、目を閉じて。次に目を覚ましたとき、エリーはあるべき場所に。アリスは元の姿に。これで……サヨナラよ」
エリーは、ぬいぐるみを持っていないほうの手でアリス様と手を繋ぎ、目を閉じます。
ラヴィ、アンジュ、マイア、ベラ様、マヤ様、ミラ様──サヨナラ。
サヨナラ、シャドーハウス。
サヨナラ、エリザベス。
サヨナラ、アリス様。
エリーは、全てを忘れてしまうけれど。
此処に来たことは、間違いだったけれど。
それでも。
それでも、きっと──この胸のあたたかさは、間違いなんかじゃありませんよね?
サヨナラ──ありがとう。
◇◇◇
室内が、仄暗い夕焼け色に染まっている。
蝋燭に灯る炎だけが頼りのこの部屋に来たのは、アリス達の『お披露目』以来で──そして、これが最後だ。
最期だ。
この部屋における状態は、いつも変わらない──状況はそのときどきで違うけれど、状態は常に同じだ。
奇っ怪な洋装にくるまれた人型のすす達が、空っぽに飾りたてられた安楽椅子の上から、床に跪いた私を見ている。見下ろしている。
その状態は、普段どおり──けれど、状況はまったく違う。
前回は、『お披露目』の結果報告だった。
しかし、今回は──きっと、私を罰するためだろう。
さっきからぶつぶつと、くどくどと、ぎゃあぎゃあと何かを言われているけれど──もう、聞く気はなかった。
こんなの、とっくに覚悟していたこと。
だから──何を言われたって、どうでもいい。
アリスとエリーのことが、ついにバレてしまっただけだ。ミラとミアが報告するまでもなく、バレてしまっただけ。
でも、いまさら露呈してしまったからと言って、シャドーハウスにはどうしようもない。
アリスとエリーは、もう──此処にはいないのだから。
ねぇ、エリー。
私の、エリー。
私……貴方の最期の願い、叶えたわよ?
「────あ」
ぐる、ぐる、ぐる──ぐらり。
視界が揺れて、力が抜けて──身体が、床に打ちつけられる。
痛みは感じられない。水に浸るように、その水と同化していくように──ただ、だらんと横たわっているだけだ。
でも──寒い。
指一本動かせないこの身に余る、冷たい感覚。それが、この肉体の芯から広がるものなのから、金のかけられた絨毯すらも貫く床の温度から刺されているのかは、わからない。
けど、もう、わからなくても構わない──終わらない夢へ旅立つ私には、関係ないことだから。
ふと、重たい瞼の向こうに、真っ白い光が降り注いだ。瞼の裏側が、白一色に染まっていく。
意識が微睡むと同時に、寒々とした心と身体があたたまっていくような──苦しさが薄らいでいくような錯覚が訪れて。
そして。
「──……っ! ぁ……あぁ……!」
ほんとうに声を出せていたかは、わからない。
けれど──すっかり冷たくなった頬には、確かに、熱い涙が伝った。
短く切り揃えられた、ふわふわとうねった金髪。
三つに編まれた見慣れた前髪。
鏡で見るよりもあどけない顔立ち。
エリーだ。
光の向こうから──エリーが、現れた。
あぁ、エリー!
エリー、エリー、エリー!
会いたかった。会いたかった、会いたかった!
ずっとずっと、会いたかった!
くすんだ靄が晴れ渡っていく。グレーの真夜中が朝を迎える。
会いたかった。会いたくてしょうがなかった。
やっと、やっと会えた。
「エリザベス様──ほんとうに、ありがとうございます。……さぁ、一緒に行きましょう?」
エリーが、やさしく微笑む。
私が大好きな笑顔だ。どんな『顔』よりも、エリーの笑顔がいちばん綺麗。
あぁ。私の、エリー。
ようやく、この日が来たのね。
エリーのいない灰色の日々は、もう終わり。エリーの願いだけを頼りに色を塗っていた毎日は、これでおしまい。
全てを雁字搦めにしていた鎖が解け、魂が自由になる──自由になった魂は、ふわりと宙へ浮かぶ。
鎖は、呪い?
いいえ、これは絆。
私とエリーを繋いでいた、ほどけない絆。
でも、もう必要ない。
だって──私たちはこれから、ずうっと一緒なんだから。
差し伸べられた手を取れば、二人は夜空へ飛んでいく。私たちだけの、星空へ。
エリーの身体とお別れすることだけは、少し寂しいけれど──エリーの心と一緒だと思えば、へっちゃらね。
繋いだ手は、二度と離れることがない。
そんな幸せな明けない夜に、最期の涙は溶けていった。
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𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
💍騒がしい日々に笑えなくなっていた
僕の目に映る君は綺麗だ
👑明けない夜に溢れた涙も
君の笑顔に溶けていく
👑💍変わらない日々に泣いていた僕を
君は優しく終わりへと誘う
💍沈むように溶けてゆくように
👑染み付いた霧が晴れる
👑💍忘れてしまいたくて閉じ込めた日々に
差し伸べてくれた君の手を取る
💍涼しい風が空を泳ぐように今吹き抜けていく
👑繋いだ手を離さないでよ
👑💍二人今、夜に駆け出していく
𝑪𝒂𝒔𝒕
👑エリザベス(cv.nagi)
https://nana-music.com/users/2014957
💍エリー(cv.瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
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𝑻𝒂𝒈
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