WILL
The Epic of Harmosphere 第2章
WILL
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Epilogue 音楽は愛
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「……こうして滅びの魔女は倒されて西の国には平和が訪れましたとさ。おしまい」
老婆が語り終えると子供たちは詰めていた息を吐き出すようにほぉーっとため息をついた。
「ねぇ先生!救国の魔女はどうして滅びの魔女を倒したんだろう?元は仲良しだったんだよね?」
「……そうさね、好きだからじゃないかね」
「えぇ~?どういうこと?」
「好きだからこそ相手を止めるためになりふり構ってられないこともあるってことさ」
「え~?」
「わかんない~!」
「ふん、お前たちみたいなチビ助には早い話だよ。さっさとベッドに……」
老婆が子供たちを寝室に追いやろうとしたその時、玄関の扉がノックされた。
「誰だい、こんな夜更けに……」
老婆は不審そうに眉をひそめる。外を見れば吹雪は未だに恐ろしい風音を奏で続けている。不安そうな表情の子供たちを下がらせると老婆は玄関に声をかけた。
「誰なのか名乗りな。盗っ人じゃないならね」
「こんな夜更けに申し訳ありません、私達は旅の者なのですがこの吹雪で道に迷ってしまって……物置でも良いので一晩だけ泊めて頂けませんか?」
聞こえてきたのは女の声。老婆は警戒しつつ玄関の扉をそっと開ける。そこに立っていたのは2人の女性だった。1人は澄んだ青い瞳に柔らかな茶の髪。もう1人は大きな紫の瞳に新緑のような緑の髪をして、羽の形の髪留めをしていた。
吹雪は未だに吹き荒れており扉から雪が吹き込む。しかし2人の女性には薄い膜が張ったように、雪が当たらずに避けていく。人知の及ばない力。明らかに2人は魔女だった。
「あ、あの、ごめんなさい。やっぱり魔女を泊めるなんて嫌ですよね」
「……入りな」
緑の髪の少女が悲しそうに瞳を潤ませてそう口にするのを遮って老婆は2人を招き入れた。2人は意外そうに目を丸くする。
「あたしは昔魔女に命を助けられたことがあってね。だから魔女だからってこんな吹雪の中にほっぽり出したりはしないさ」
「あぁ、ありがとうございます奥様!」
「奥様なんて呼ぶのはやめとくれ。あたしは生涯独り身だよ。この診療所をやってくだけで精一杯で……まぁ身寄りのない子供を引き取ってるから、騒がしさには事欠かないしねぇ」
「では、何とお呼びすれば?」
茶髪の女性の問いかけに老婆はため息をつく。
「この辺のやつらは柄でもないのにあたしのことを先生って呼ぶけどね。名前はヒルデって言うのさ。好きにお呼び」
「ヒルデさんですね。本当にありがとうございます」
「は、はい、本当に助かりました……」
2人が感謝を述べていると、興味を惹かれたらしい子供たちが部屋の扉からひょこりと顔を出した。可愛らしい様子に思わず2人は顔を見合わせて破顔する。
「先生、そのひとたちだれ?」
「旅をしている魔女だそうだよ」
「魔女?すげーっ!魔法が使えるのか!?」
その言葉に茶色の髪の女性──ファシリアは微笑んで杖であるチェンバロを魔法で取り出した。
「1泊のお礼に皆さんに1曲お贈りします!」
わぁーっ!と子供たちが歓声をあげる。どうやら子供たちの眠気は飛んでいってしまったらしい。ヒルデはやれやれとため息をついた。
「ならあれがいいな!らんららーんってやつ!」
「何だそれ」
「だから!この前村に来た芸人が演奏してたやつ!」
「あぁ、あれかぁ。お前、歌が下手だな」
小さな少女の代わりに少年が口ずさんだ曲を聞いてファシリアは微笑んだ。
「素晴らしいです!それは偉大なる作曲家ルチア・ゴットリープが愛する恋人のために作ったと言われる曲ですね!」
「な、なら、私は一緒に歌を歌います」
ファシリアの伴奏に合わせてモリーが歌うと、ファシリアは手を止めて目を輝かせる。
「貴女って小鳥のような素敵な声ね!何だかとっても懐かしい気持ちになるような……」
「……ふふ、ありがとう」
魔女たちの奏でる音楽に人間の老人と子供たちが楽しそうに耳を傾ける。吹雪の中、その音色はいつまでも響き渡っていた。
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「これで良し……」
最後の木材を魔法で組み上げると、ネージュは満足気に息をついた。目の前に木を組み合わせただけの簡素な山小屋。イヴと暮らしていたものとそっくりだ。
「本当に良いんですの?貴女なら王都に屋敷を貰うこともできるのに」
問いかけてきたのはマリアだ。上質そうな毛皮を身につけているが、寒さのせいか鼻の頭が赤い。それでも気品を失わないのは流石と言ったところか。
「はい、救国の魔女だなんて……私はそんな偉いものじゃないですから」
「……貴女の気持ちは分かるわ。でも貴女、あの魔女との約束を守るために無理をしているでしょう?他の魔女に手を出せば呪われることもある。それなら1人じゃない方が……」
「……それでも、ここが私の帰る場所ですから」
イヴと永遠の別れをしたあの日。
魔力が尽きたイヴは、空中の箒から枯葉のように力無く地面へ叩きつけられた。
『イヴ……!』
『あぁっ、どうして……!あんなに人間を愛していたのに、大切にしていたのに、どうして裏切ったの……私の弟を、悔しい、許せない……許せない……』
豪雨でぬかるんだ泥のお陰で大きな怪我は無いようだったが、魔力が尽きた体は陶器のようにひび割れてしまっている。意識も曖昧なのか口走る言葉もとりとめがなく支離滅裂だ。
ネージュはイヴに駆け寄り、その体を抱き起こす。
『イヴ……苦しいよね、辛いよね。イヴが人間と仲良くしたいと思ってた気持ちは本物だった。それを裏切られたら悔しいよね……』
『ネ、ネー、ジュ?』
『だからイヴとイヴの弟さんみたいな人が二度と生まれないような世界を今度は私が作るよ。約束する』
その言葉にぼんやりとしていたイヴの瞳が見開かれネージュを写した。
『そ、んなの……できないわ……だって……』
『≪貴女と見た世界(ビューティフル·ワールド)≫』
ネージュの杖がほのかに光を放つと、イヴの身体が暖かな光の粒子に包まれる。
『これが私の固有魔法みたい……イヴと同じ誰かの願いを叶える魔法。私がイヴの願いを叶える!人間と魔女が一緒に暮らせる世界を……私が……!』
泣きながら言うネージュの姿に、イヴの瞳から大粒の涙が零れ、泥に汚れた頬を洗い流した。
『ネージュ、ありがとう……』
それがイヴの最期の言葉だった。
だからネージュは魔女と人間が共存できる世界を目指し続ける。いくつ呪いを浴びても、それがイヴとの最期の約束だから。
「たくさんの人が教えてくれたんです。幸せも苦しみも喜びも悲しみも、生きていくにはたくさんの事があるけれど……それでも私たちはそれを抱えて未来へ向かって生きて行かなきゃいけない」
「……そうね。貴女がそう言うなら、私から言うことはもう何もありませんわ」
マリアはそう穏やかに告げて雪山を去っていった。 その頃にはすっかり日は暮れて、頭上には昔と変わらない星空が広がっている。
ネージュはそっと呟いた。
「ただいま、イヴ」
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これが滅びの魔女と救国の魔女の真実の物語。
誰も知らぬ──哀しき英雄の物語。
愛する者を喪い、それでも前に進んだ彼女の強さと信念が1000年後の夜明けをもたらした。それは皆様のご存知の通り。
音楽は魔法の如し。時を超え場所を越え、いつまでもそこに込められた愛を響かせる。彼女達の思いもまた未来へと繋がっているのだろう。
では、これにてこのお話はおしまいとしよう。
第2章 滅びの魔女と救国の魔女 ─END─
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❄ネージュ(cv.瑠莉)
🦢イヴ・リーンカイン(cv.IRYU)
🎼ルチア・ゴットリープ(cv.黒川かずさ)
🎶マリア・テンポルバート(cv.ここあ)
🪙ヒルデ・イスカリオテ(cv.はいねこ)
✝️アリエル(cv.海咲)
🎹ファシリア・ネバーランド(cv.ゆきかぜ)
🐦モリー・ブルーフェザー(cv.神楽坂和音)
✝️🪙花はやがて 土に還り 芽吹いていく
🎹🐦新たな 若葉を育てていくのでしょう
🎼🎶それでも 愛した 日々は消えない
all:帰ろうか 帰ろうよ
捨て去るものなんてない
喜び 悲しみ 全てにたゆたい
❄ただ 🦢ただ ❄🦢ただあなたと
❄生きていく
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◇第2章 プレイリスト◇
https://nana-music.com/playlists/3840346
◇素敵な伴奏ありがとうございました◇
ひびき様
https://nana-music.com/sounds/05a7ee04
◇画像◇
はいねこ
◇ 𝕋𝕒𝕘 ◇
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