【大きな背中は何を残して】
⑩渉・零・なずな
【大きな背中は何を残して】
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モノローグ 朔間 20230105
モラトリアムの終わりを告げる黒い筒を手に、もう多くの生徒は最後の下校を果たしていた。
すっかり傾ききった陽のなかで、廊下の隅に佇むひとり。
その姿を見れば、もうひとりは察したように足を止める。
特段、待ち合わせなどしているわけではなかったが、もはや2人の間に言葉は不要だった。
奇術師と魔物は、それだけの絆で結ばれていた。
そして、その不思議な絆の音が、大きな耳には聴こえたのだろう。
小さな体はくるりとこちらに翻り、"かつて、自分に掛けがえのない未来をくれた"その偉大な友人のことを、ぼうっと眺めていた。
いつかはずっと遠くに見えていたその友人たちは、どこか雲の上の存在のようで。
手を伸ばしても飛び跳ねても届きそうになかった彼らの姿は、まだ寒い春の風の中で少しだけ、近くにいるように感じた。
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