テロル
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
テロル
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__𝕋𝕙𝕖 𝕖𝕧𝕖 𝕠𝕗 𝕠𝕦𝕣 𝕔𝕠𝕦𝕟𝕥𝕖𝕣𝕒𝕥𝕥𝕒𝕔𝕜.✩₊*˚
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暗闇に閉ざされた世界で、一人の少女が泣いていた。
二度と光が射すことのない、星灯りさえ届かない場所で。
世界に嫌われた蛇遣い座は、誰にも届かない声を響かせながら、涙を流し続けていた。
零れ落ちた雫が闇夜に溶けては、見えなくなっていく。全てが零れ落ちていく。
鎖された世界で、誰かが囁いた。早く。早く、救わなければ。助け出さなければ。
あの狂った世界から、一刻も早く彼女を解放しなければ。
目を閉ざしても耳を塞いでも、響く声は鳴りやまない。暗闇の中の幻聴が、見えるはずのない幻覚が、途切れることなく少女を苛み続けている。
彼女を苦しめるそれだけが、その少女を──零を生かし続けている呪いだった。
◇◇◇
何の予兆もなく星灯りが消えた。黒い影が星天界に落ち、世界が揺れた。
蛇遣い座の襲撃を知らせるその光景と、綺麗な記憶が結びついたことは一度もない。あるのは混乱と、恐怖と、怯えだけだ。
それでも不思議なほどに、藍空の心は落ち着いていた。きっと微かな予感があったのだろう。藍空は、藍空のすべきことをする。それだけだ。澄んだ空気で肺を満たせば、思考まで透明になっていくようだった。
長い黒髪を揺らしながら、闇の中の少女は光のない双眸を向けた。今日は、悲哀に満ちた彼女の歌は聞こえない。一切の物音が、世界から消え去っていた。
それは、唐突に訪れた決戦の夜だった。この機会を逃せば、次に彼女と対話出来るのがいつになるかは分からない。もしかすると、二度と姿を見ることがないままに藍空達は命を落とすかもしれない。
未来の見えない藍空達にとって、これがきっと最後の機会だった。
「……あなたと、話がしたいんです」
何度も何度も頭の中で繰り返してきた言葉。怯えが残っているのか、その声は震えていた。そんな自分を叱咤するように、少女の方へと一歩を踏み出す。
怖くないわけがなかった。彼女はいつだって、誰かの死の隣にいたから。蛇遣いの少女は、星巫女にとっての死神だったから。命を捨てても良いと虚勢を張ってみたところで、どうしたって死ぬのは怖かった。その恐怖は、捨てられないままだった。
だけど、このまま何もせずにいることはきっと、死ぬよりも怖いことだ。藍空達が変えようとしなければ、きっと何も変わらない。これからも聖なる少女の名を冠した生け贄は選ばれ続け、大切なものを奪われた少女達が世界に捧げられる。
それだけは、絶対に許せなかった。
藍空の言葉が届いたのだろう、蛇遣いの少女はゆっくりと首を横に振った。以前見たのと同じ拒絶の色が、色濃くその瞳に映っている。
「話したくなければ、話さなくてもいい。だけど……歌うのは、私達の話を聞いてからにして欲しいんです」
受け入れられるかどうかも分からない、延命処置のような言葉だった。藍空は、刹那のように賢くない。巧言令色を並べ立てて相手を操ることなんて、出来そうにもない。
だから、真っ直ぐに伝えるしかなかった。藍空の感情を、ただ言葉にすることしか出来なかった。
奏でられかけた歌が止まる。畳みかけるように、藍空は言葉を継いだ。暗闇の中の視界が澄んでいる。今の藍空はきっと、誰よりも透明な世界にいた。
「あなたは、教えてくれた。これは自分が願ったことだ、そう言ってくれた。だけど……今の神様には、願いを叶える力なんてない。心鍵に閉じ込められている神様が、願いを叶えられるはずがない。だから……きっと、私の知らない何かに願ったはずだ、そう思いました。お願いします。その方法を、教えて欲しいんです。あなたが、誰に何を願ったのか。どうして叶えられたのか。それと……あなたはどうして、この世界を壊そうとするのか。私達に、教えてくれませんか」
暗闇だけを映した双眸が、動揺するように揺らめいた。恐怖、怯え。璃星が死んだ日と同じ表情をしていた。ああ、殺されるのだろうか。藍空はまた、失敗してしまったのだろうか。
藍空が藍空でなければ、上手くいったのかもしれない。紅愛を失った日の後悔が思考に絡みつき、藍空を引き摺り降ろそうとする。急速な欠乏感。酸素が足りない。呼吸困難に陥りかける。
「……私は」
藍空が自分を見失うよりも先に、口を開いたのは祈鈴だった。
「私は、ずっとこの世界が嫌いだった。どうして生きているんだろうって何度も思った。星巫女になって、世界を守るように決められて……それでも、世界なんて滅べば良いってずっと思ってた。この世界に守る価値があるなんて思えなかった」
俯きながらも、祈鈴は言葉を続けた。彼女の足元に映るのは、星天界の中心部。初めての星巫女が――咲羽が、命を落とした場所。彼女の瞳にはきっと、今もその時の光景が焼き付いているのだろう。呪いのように、あるいは罰のように。
「それでも、約束したから。星巫女になって、初めて出来た叶えたい約束を、まだ果たせてないから。だから、それまで世界を壊させるわけにはいかない」
俯いていた顔を上げ、蛇遣い座の目を見据えて。はっきりと、祈鈴はそう言い放った。きっとそれは、蛇遣いの少女に伝えたいことで──祈鈴なりの決意なのだろう。
「私は、未来の星巫女を救いたい。そう思っています」
透明な瞳に、強い意志を映して。雪涙も、そう言葉を継いだ。
「それはきっと、あなたも同じだと思うんです。星巫女になって、どんな願いを叶えたのか……それは、分かりません。だけど、きっとすごく辛くて苦しいことがあったんだと思います。だから、星天界を攻撃するんですよね……?」
涙を流せない雪涙はきっと、誰よりもその身に悲しみを溜め込んできた。だから、他人の悲しみにも酷く敏感だ。紅愛を失ってからの数ヶ月間で、藍空は雪涙に対してそんな印象を抱いていた。
実際に彼女は、誰よりも優しかった。雪涙と親しかった星巫女である灯莉は、蛇遣い座の少女に殺されたというのに――それでもなお、雪涙は彼女の悲しみを慮っては心を痛めている。
「私達はただ、もう誰にも星巫女になって悲しい思いをして欲しくない。それだけなんです。星巫女になっただけで、大切なものを理不尽に奪われて、どうしようも出来なくて……そんなの、もう誰にも経験してほしくない。そう思っているんです」
少女の影が揺らいだ。怯えの籠った視線が、その色を変えていく。星天界を睨みつけるようだったその視線が、形を変えていく。一つの感情に染まっていく。
暗闇の中の少女は、ただ純粋な悲しみだけを纏って藍空達を見つめていた。深く息を吸い込んで、藍空は口を開く。少女の心に届くように。
「私達は、ただ未来の星巫女を救いたいだけです。自分達の命がどうなってもいい。きっともうすぐ死ぬのも分かっています。これが、私達の最期の願いです。星巫女を、自分達の代で終わらせたいだけなんです。……お願いします。星巫女を、助けてください」
告げた言葉だけが、一つの願いだけが、藍空の胸を満たしていく。
殺されるかもしれない。ここで死ぬかもしれない。祈鈴も、雪涙も、藍空も、今日命を落とすことになるかもしれない。
「未来の星巫女」なんて、藍空には無関係な存在のはずなのに。顔も名前も分からない、曖昧な存在のはずなのに。
そのために命を賭して、らしくもない言葉を並べ立てて。かつての藍空が見れば、きっと馬鹿らしいと笑い飛ばすだろう。
だけど、藍空はこの道を選んだ。命を懸けてまで、星巫女を終わらせる道を選んだ。
意味も価値も見出せない人生を利己的に歩んできた藍空が、大切な人を殺してまで生きている藍空が、誰かのために死ねるのなら。
初めて藍空は、呪い続けてきた自分という命を肯定することが出来る。そう思った。
贖罪でも仇討ちでもない、藍空が藍空の人生を作るための選択だった。
もう、恐れなくていい。どんな結末が待っていようが、藍空はそれを受け入れる。
ゆっくりと息を吐き出して、そんな覚悟と共に顔を上げる。
深い暗闇の中で、蛇遣い座の少女は、静かに涙を流していた。
「――私の名前は、零。ずっと昔に、蛇遣い座の星巫女だった」
涙交じりの震えた声が、夜闇に揺れて溶け出した。
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
❄️言葉になんてならない手紙をひたすら書いてさ
🗝明日の自分に送りつけてやろうと思ったが
❄️そんな住所なんてない
🗝どこにいるかもわからない
❄️🗝なら僕は この気持ちをどうすりゃいい
☘️なりたくない自分になれた気分はどうですか
⚖遥か彼方天国で神様が指を指し笑う
☘️黙れこの役立たず
⚖早く何処かへ行ってくれ
☘️⚖さめざめと 惨めさだけが募ってく
❄️藪睨み目で愛にそっぽ向いて
六畳に立て篭るテロリズム
☘️いつだって歌ってきた
いや、叫んでたんだよ
それが間違いというなら
⚖言葉より重い弾で 射抜いてよ
☘⚖❄🗝やられたらやり返せ 君の番だ 捨てた夢の全てを拉致しろ
🗝心の居場所を賭したレジスタンス
☘⚖❄🗝笑われたその分だけ 笑い返せ 言わば人生のクーデター
☘⚖❄勝ちも負けもない延長戦 僕らの反撃前夜
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♈︎Aries #星巫女_祈鈴
☘️祈鈴(cv.朔)
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♎︎Libra #星巫女_藍空
⚖藍空(cv.くろ)
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♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
https://nana-music.com/users/579307
#星巫女_零
🗝零(cv.たぬ)
https://nana-music.com/users/1723448
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴SAKURA様
https://nana-music.com/sounds/022385a8
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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