四万年前の人類最古の骨の笛
今日の戯言 2022年9月9日 2:11
四万年前の人類最古の骨の笛
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「ネアンデルタール人の笛」、動物の仕業だった
“人類最古の楽器”とされた骨笛の穴は、ハイエナの歯の跡と判明
スロベニアのディウイェ・バーベ洞窟で見つかったホラアナグマの骨。ネアンデルタール人が製作した有史以前の楽器と考えられていたが、新たな研究により、骨に開いた穴は動物の歯によるものと示された。(Photograph by Reuters)
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「ネアンデルタール人の笛」と呼ばれ、人類最古の楽器と考えられてきた太古の骨が、最新の研究によって、人工物ではなく動物がかじってできたものらしいことがわかった。3月31日付の英国王立協会の科学誌「Royal Society Open Science」に論文が掲載された。
骨に開いた穴は人為的?
「ネアンデルタール人の笛」は、ヨーロッパ南東部の複数の洞窟で発見されている。幼いホラアナグマの大腿骨に丸い穴が規則的に開けられており、管楽器の指穴のように見える。なかでも、スロベニアのディウイェ・バーベ洞窟で1995年に出土した4万3千年前のものが最も有名だ。
これらの「笛」はネアンデルタール人が製作したのか、獣が死骸をあさり骨をかじった跡なのか、専門家の間で論争が続いていた。論文を執筆した古生物学者カユス・ディードリッヒ氏は今回、骨の損傷パターンと先史時代の動物の骨を15カ所の洞窟で調査。この骨笛の穴には石器で人為的に開けられた形跡がなく、氷河期に生きていたハイエナの歯の跡であると結論づけた。幼いホラアナグマの骨は軟らかいため、出土品のような穴を開けることが可能という。
「古人類学者の多くは、ディウイェ・バーベの『笛』が肉食動物にかじられた骨だという見方に同意しています。一方、笛だとされる例が何度かあったのも事実です」と話すのは、カナダ、ビクトリア大学の考古学者エイプリル・ノウェル氏だ。
ディウイェ・バーベの遺物はネアンデルタール人の時代にまでさかのぼり、スロベニア国立博物館ではこれを「ネアンデルタール人の笛」と紹介している。類似の骨はほかにも出土しているが、その多くはネアンデルタール人の頃よりも新しいことが今回の研究でわかった。
人類最古の楽器を作ったのは?
「笛」の正体がはっきりしたことで、ネアンデルタール人が楽器を製作していた証拠はなくなってしまった。では、初めて楽器を作ったのは、どんな人類だったのか。
その功績をあげたのは、後期旧石器時代のオーリニャック文化に属していたドイツ南西部の人々だった。4万年前、彼らはハゲワシの骨やマンモスの牙から笛を作っていた。彼らの笛は見た目が現代の楽器により近く、道具で加工した跡がはっきり残っている。
ドイツ・テュービンゲン大学の考古学者ニコラス・コナード氏は、現生人類が音楽を奏でることで集団の結束を強化できたのかもしれないという。それが共同体の組織化を助け、ネアンデルタール人よりも効果的に勢力を広げられたのではないかとの見方だ。
ネアンデルタール人は音楽を知っていたか
「ネアンデルタール人は楽器を使わずに、手拍子をしたり、体の一部を叩いたりして音楽を奏でていたかもしれません。あるいは楽器を作っていたけれど、土に還り現在は残されていない可能性もあります」とノウェル氏は指摘する。
しかし、ネアンデルタール人の生活に楽器や音楽の類があった形跡は今のところ見つかっていない。ノウェル氏は、「ディウイェ・バーベの『笛』に関する真相が明らかになり、一部で非常に根強く残っている楽器説は消えることになるでしょう」と話した。
世界最古の楽器? 4万年前の骨フルート
ドイツの洞窟で見つかったマンモスの牙を使ったフルートは、4万年前のものであることが判明した。「6万年前のフルート」を復元して演奏した動画も紹介。
マンモスの牙を使ったフルート。Image courtesy of Oxford University
英オックスフォード大学は、同校と独テュービンゲン大学の研究者が、世界最古の楽器と見られるマンモスの牙とトリ[ハゲワシ]の骨によるフルートのコレクションについて、時代を特定したと発表した。同じ深さの採掘で見つかったほかの骨が、放射性炭素年代測定で40,000年前のものであることがわかったのだ。
主執筆者のトム・ハイアム教授が率いたオックスフォード大学のチームは、「改良した限外濾過法」を用いて、骨に含まれていたコラーゲンから異物を取り除いたという。
ドイツ南部シュヴァーベン・シュラ地域にあるGeißenklösterle洞窟の遺跡は、「ヨーロッパにたどり着いた最初の現生人類が住んだ場所と広く考えられている」。
今回の年代決定によって、「初期の現代人と結びつきのある、上部旧石器時代から始まる文化」とされるオーリニャック文化期が、当初考えられていた42,000~43,000年前よりも、2,000~3,000年早く始まっていたことが判明したことになる。
Geißenklösterle洞窟の遺跡は、「オーリニャック文化期では最も初期のもので、イタリア、フランス、イングランドなど、ほかの地域にある同文化の遺跡よりも以前にさかのぼる」という。
「この地域では、装身具、造形芸術、神話の描写、そして楽器と、重要な出土がある洞窟が複数あり、Geißenklösterleはそのひとつだ」と、テュービンゲン大学のニック・コナード博士は説明している。
今回の新しい年代決定で重要なことのひとつは、気温が著しく低下した大きな気候の変動より以前に、ドナウ渓谷に人類がいたことが証明されたことだ。激しい気候変動が人々を、宗教や楽器への希求へと向かわせたのかもしれない。
[オーリニャック文化はフランス・ピレネー地方を中心とする地域の旧石器時代後期に属する一文化で、担い手はクロマニョン人。ヨーロッパにおいて更新世の最後の氷河期である第4氷期の第1亜間氷期から第2亜間氷期まで続いていた。洞窟絵画や彫刻などが製作されたのはオーリニャック文化期からで、特に有名なのはラスコー洞窟に残る多彩な壁画。
ドイツ南西部の洞窟からは、36,000年前の女性像も発見されている(日本語版記事)。また、2009年にも、同地域から「約35,000年前のフルート」が発見されている。なお、スロヴェニアの遺跡で発見された60,000年前の骨は、ネアンデルタール人が作ったフルートだという説もある。以下は「ネアンデルタール人のフルート」を復元して演奏した動画]
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