ロスタルジー
太陽の船
ロスタルジー
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その頃僕たちの世界は皆と相手と家族という線引きしか無かった。皆から切り離された特別な存在同士だった。おともだち、とされる皆にはない輝きが彼にはあった。
「がっくん、しょうらいなんになりたい?」
「うーん、カッコイイの!」
「ははっ、なにそれぇ。ぼくはね、まちをしょってたつおとなになるんだって」
「うーん?おんぶするってこと?」
「わかんない。でも、ぎょくざんちょうのことすきだから、なれたらいいな」
「すき、ならおんぶしていいの?じゃあ、まーくんのことおんぶしたげる!」
「えー!? がっくん、つぶれちゃうよ」
「ほらほらー!」
「うごいたら、のれないよぅ。
―あっ!ここからみると、がっくんおひさまおんぶしてるみたい!」
まだ建設途中の団地の更に向こうに沈んでいく赤赤とした夕日が見える。僕をおんぶしようと屈んだまま、向きを忙しなく変える彼のその一瞬を何故か今思い出した。
「あと10回、もうちょっとで願いが叶うんだぁ……」
おまじないをやる度にシールを貼っていた手帳を開いて、ガクは満足そうに笑う。随分と会っていないが、ハイルからおまじないをするなら記録を残さない方がいいと言われたが、忘れっぽいガクにはむしろ必要不可欠だった。このおまじないはこうやって何回もやらないといけないのに、ミモザの教えてくれた言葉は魔法みたいに、父親を喜ばせた。ずっと不機嫌そうだったのが嘘みたいだった。
(でも、今日のまーくん変だったな。俺のおまじない叶ったら、ちっちゃい頃のまーくんみたいになるかな)
太陽の船に乗ってから、彼はずっと何かを悩んでいるみたいだった。岳はその理由を知っていた。だから、まーくんが活動する前に、どうしてこの町を守りたいと思うのか聞いてきた時に、少し変だと思ったのだ。玉山を好きなのはまーくんで、なくなったら彼は悲しむから。もちろん岳自身も同じくらい玉山町が好きで、思い出の場所をなくしたくなかった。まーくんとの思い出が無くなるような気がして嫌だった。
どんどん夕日が見えなくなっていって、太陽が遠くなっていく。喧嘩ごっこも小学校の図書室も、大きな団地と色々な建物の影になって消えていく。玉山町が影になって飲み込まれても、オレたちが太陽を運んでこれるように願って名付けた太陽の船の出航が、悲しいけれど近くなっているような予感がしていた。
#太陽の船
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