星の消えた夜に
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
星の消えた夜に
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__𝕀'𝕝𝕝 𝕤𝕚𝕟𝕘 𝕒 𝕤𝕠𝕟𝕘 𝕥𝕙𝕖 𝕟𝕚𝕘𝕙𝕥 𝕀 𝕝𝕠𝕤𝕥 𝕞𝕪 𝕧𝕠𝕚𝕔𝕖.✩₊*˚
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星巫女としての務めを終えれば、一つだけどんな願いも叶えられる。
もしそれが本当だとしたら、もう一度お母さんに会えるのだろうか。
「ねえ、雪涙ちゃん。なんでも願いが叶うとしたら、雪涙ちゃんは何を願う?」
見慣れてしまった星天界の下で、灯莉と二人きり。久しぶりの再会に心が弾み、微かに頬が綻ぶ。
星巫女のお務めのことや、この前の召喚で会った他の星巫女のこと。灯莉の学校での話や、雪涙の家族のこと。
そんな何気ない雑談の延長線上に、その言葉が告げられた。爆弾とまでは言わないけれど、思考を一瞬止めるのに十分なくらいの威力を持ち合わせた言葉だった。
「お務めを終えた星巫女は、何でも一つ願いを叶えてもらえるって噂があるんだって。もし本当なら、すごいことだなって思ったんだ」
そう言って、灯莉ははにかんだ。先週他の星巫女と一緒に儀式をした際に聞いたらしい。そういえば、雪涙もそんな話をどこかで聞いたような気がする。どんな話をしているのか気になったものの、迷った末に結局話に混ざれなかったことがあった。その時に微かに聞こえて、そのまま忘れてしまっていたのだろう。
「本当に願いが叶うのなら……私は、お母さんに元気になって欲しいなあ……」
先程よりも少しだけ小さな声で、言葉が紡がれる。雪涙に話しているのか、独り言なのか。それとも、すぐそばにいるはずの神様に話しかけているのだろうか。
何でも一つ願いが叶う。おとぎ話でも夢物語でもなく、本当になんでも、雪涙の願いが叶うとしたら。
願いたいことなんて、一つしかなかった。
「私、は……お母さんに、会いたい」
意識して口にした言葉ではなく、いつの間にか零れていた声だった。神様に届けばいいと、無意識下で思っていたのかもしれない。こんなことを言われても困るだけだと、少し考えれば分かりそうなものなのに。それでも、雪涙の一番の願いはこれだった。
隣の灯莉がはっとしたように小さく息を呑む。アメジストの双眸が迷うようにゆらりと揺れ、悲しそうに伏せられた。
「ごめんね、雪涙ちゃん、その……私、そんなつもりじゃなくて」
雪涙よりもずっと悲しそうな声で、灯莉が告げた。今にも泣き出してしまいそうなくらいに声が震えている。真っ暗な夜空と同じ、後悔の色をしていた。
「……大丈夫」
灯莉が謝るようなことなんて、何もない。お母さんとはもう、二度と会えないのだと思っていた。だけど星巫女の任期が終わったら、雪涙の願いを叶えてもらえるかもしれない。もう一度話が出来るかもしれない。優しく名前を呼んで、頭を撫でてくれるかもしれない。ゼロだった可能性の世界に、叶わない夢だった世界に、小さな光が灯った。そんな希望が見えただけでも嬉しかった。
だけどそれを伝えるには、雪涙はあまりにも口下手だった。先程発した言葉を脳内で繰り返す。不愛想な声だったかもしれない。怒っているように聞こえたかもしれない。本当の気持ちを伝えようにも、欲しい言葉は捕まらないで逃げていくばかりだ。
結局何も言い出せないまま、沈黙がその場を支配した。
折角灯莉と会えたのに。話がしたいとずっと思っていたのに。何を話せばいいのだろう。ひたすらそればかりがぐるぐると頭の中を巡っている。行き場のない思考の循環を断ち切りたくて、見切り発車で口を開いた。
「あ、あのね、灯莉……」
俯き気味だった灯莉の顔が上げられる。雪涙の表情を覗くような、不安そうな紫色と目が合う。灯莉の表情は時々酷く幼くて、妹と重なって見える時がある。
「もし、叶う願いがひとつだけじゃない、なら……灯莉は、何をお願いする……?」
答えの見つからない迷路の中で、必死に悩んで考えた末。口をついて出たのは、そんな言葉だった。灯莉の瞳が、驚いたように微かに見開かれる。
「何でも、願いが叶うなら……私、友達と遊びに行ってみたい……!」
ぎこちない灯莉の笑顔が、蕾が解けるように明るい表情へと変わっていく。瞳を輝かせながら、少し恥ずかしそうに灯莉は言った。
「普段は遊びに行くような余裕なんてないから……もし叶うのなら、色んなところへ遊びに行ってみたいな。クラスメイトの子が楽しそうに話してるのを聞いて、ちょっと羨ましかったんだ」
「わ、私も……!」
雪涙と同じだ。そう思って食い気味に言葉を返してしまう。弾けたように灯莉が笑った。
雪涙も、灯莉と同じだった。今までは生きるだけで精いっぱいだったから。遊園地、水族館、映画館。言葉の羅列として耳にするそれは、常に雪涙の見ている世界からは遠いところにあった。手を伸ばしても届かない、宝石のような場所だった。
だけど、もしも何でも願いが叶うとしたら。雪涙の手が、届くようになるのだろうか。憧れていた場所に、行っても良いのだろうか。
「私も、灯莉と二人で、遊びに行ってみたい……」
おずおずとそう口にしてから、馴れ馴れしかったかなと灯莉の様子を窺う。雪涙がこんなことを願っても良かったのだろうか。
灯莉の指している「友達」は、雪涙以外の誰かかもしれないのだ。こんなことを言って、気を悪くしなかっただろうか。雪涙は灯莉のことを友達だと思っているけれど、灯莉はどうなのだろうか。
喜びに満ちた心を覆い隠していくそんな不安を掻き消すように、灯莉が言葉を返した。嬉しそうな笑顔が浮かんでいる。
「私も! 私も、雪涙ちゃんと遊びに行ってみたいな……! 遊園地とか、動物園とか、小さい頃に行ったきりで……お母さんが病気になってから、一度も行けてないから。雪涙ちゃんと一緒だったら、絶対楽しいと思う!」
嬉しそうな声に安堵して、気付かないうちに強く握っていた右手をそっと解いた。
灯莉も、同じことを思っていてくれた。それだけのことがすごく嬉しくて、心が暖かいものに満たされていく。
いつか、叶えられる日が来るだろうか。友達と遊びに行きたい。そんな大きな夢を、願ってみてもいいのだろうか。
夢も願いも、雪涙が抱いて良いものではないと思っていた。お母さんがいなくなったあの日から、ずっと。お母さんを殺したのは自分ではないのか、と思い続けていたから。自分には何の価値もないように思われてならなかったから。
だけど、灯莉は言ってくれた。雪涙と遊びに行ってみたいと。その言葉が、雪涙にとっては何よりも嬉しかったのだ。
二人の夢がいつか、叶う日が来れば──雪涙が、叶えることが出来る日が来ればいい。
星灯りは静かに、二人の夢を照らしていた。
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
❄️多分 君はとても優しくて 一人で抱え込むばかり
少し歩くのに疲れたら 荷物をおろせばいい
🎈❄️大丈夫だよ 大丈夫だから
🎈ほら 夜が更けるよ ほら夜が更ける
🎈❄️星の消えた夜に 何を願うの?
遠くを見てる目には 何が映るの?
❄️星が消えた空より隣を見てよ 気付いて
🎈❄️思い出? それより確かなものがある
多分 そうなんだ
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♑︎Capricorn #星巫女_灯莉
🎈灯莉(cv.瑠莉)
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♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴萩*様
https://nana-music.com/sounds/063dd33e
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
#萩伴奏 #Aimer #星の消えた夜に
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